「ちきゅう」を用いた表層科学掘削プログラム(SCORE)

Exp. 913: Reconstruction of the Kuroshio state for super interglacials during the Brunheschron

航海概要

航海名Reconstruction of the Kuroshio state for super interglacials during the Brunhes chron
掘削地点32°26.48’N, 134°13.67’E
航海予定期間2021年8月22日~8月31日
科学目的北太平洋の西岸境界流である黒潮は、日本や東アジアの気候に大きな影響を及ぼしている。本航海では、四国沖SKK-02地点において完全な連続堆積物を回収することによって、過去100万年間の黒潮変動の完全復元を目指す。特に、将来の温暖化地球のアナロジーとして重要な酸素同位体ステージ5eや11の黒潮の実態を解明する。また、九州起源のテフラ層序の構築による火山噴火史の解読にも取り組む。
作業内容水圧式ピストンコア採取システムにより、海底下0〜99mの区間でコア試料を採取する。掘削孔は3本の予定。
Lead ProponentMinoru Ikehara
Proposal Cover Sheet013R2_200914_Proposal_cover.pdf

※今回は、次世代の人材育成を目的に「教育乗船枠」を設け、多数の応募者の中から選抜された6名の大学院生が乗船しました。それぞれが航海を通じて感じたこと、経験したことをレポートにしてもらいました。

レポート1: SCORE航海 Chikyu Exp. 913 が開始しました!

2021年8月24日(火)

2021年8月22日から、「ちきゅう」を用いた表層科学掘削プログラム(SCORE)が始まりました!航海の目的や意義について、首席研究者の池原 実 先生(高知大学)に伺いました。

池原 実 首席研究者(高知大学 海洋コア総合研究センター)
池原 実 首席研究者(高知大学 海洋コア総合研究センター)

航海の目的を教えてください。

池原:航海の目的は、過去100万年間の黒潮変動の完全復元です。
黒潮は、熱帯域から熱や水蒸気を運び、日本や東アジアの気候に大きな影響を及ぼしています。この黒潮が過去にどのような変動をしてきたのか、海底の堆積物を連続的に掘削し、分析することで明らかにすることを目指しています。

黒潮の変動を解明することには、どのような意義があるのでしょうか?

池原:地球温暖化が進行すると、黒潮の流れが強く、速くなることが予測されていますが、過去の黒潮の状態を調べることで、温暖だった時代の黒潮がどのようであったのか、事実を提示することができます。これにより、黒潮の挙動の将来予測に活かすことができると考えています。

過去の温暖だった時代のコアを採取することが重要なのですね?

]池原:地球は、過去、だいたい10万年周期で寒くなったり(氷期)、温かくなったり(間氷期)を繰り返しています。その中でも現在より温暖だった時代を「スーパー間氷期」と呼んでおり、12万年前や40万年前がそうであったと考えられています。
この時の黒潮の水温や、どれほどの熱を運んでいたのか知ることが重要と考えられますが、北西太平洋での堆積物コアはこれまでにあまり採取されておらず、信頼できるデータに乏しいので、今回、採取して調べたいと考えています。

池原コチーフとインタビュワー監物
池原コチーフとインタビュワー監物

今回は四国沖で掘削を行いますが、この場所を選んだ理由は?

池原:まず、黒潮は数年に一度、大蛇行と言って、流路が大きく変わる現象が知られています。しかし、四国沖ではこの影響を受けず、常に黒潮が流れているので、黒潮に関する連続的なデータが取れると考えたからです。また、先ほど地球の気候は10万年周期で変動をしていると言いましたが、四十数万年前より以前は、この周期が短かったり振幅が小さいことが、主に高緯度域(北極や南極)のコアから知られています。この切り替えのことを、「中期ブリュンヌイベント」と呼んでいますが、この時代をカバーする中緯度域のデータがあまりありません。黒潮の挙動と合わせて、中緯度域でのこのイベントを知るには、四国沖はとても適しています。さらに、サブテーマとして、九州の火山活動の履歴を調べることも予定していますが、九州の火山からの火山灰は偏西風に乗って流されるため、これを調べるのにも、四国沖は最適です。

赤い★で示したところが掘削予定地点
赤い★で示したところが掘削予定地点

今回の航海にかける期待などをお伺いできますか?

池原:今回は「ちきゅう」での初めての古環境に関する航海となります。100mまでのコアを採取することができるということで、これまであまり採られていない、古い時代までの連続的なコアを採取できることが期待されますし、古環境の研究に「ちきゅう」が使えることを示せるのは、意味があると思っています。
さらに、今回は「教育乗船枠」による大学院生の乗船も多く、若い世代に経験を積んでもらう機会となったことも良かったです。

池原首席研究者
池原首席研究者

池原先生、ありがとうございました!

これを書いている数時間後には最初のコアが上がってくることが予定されています。
どんなコアが上がってくるのか、どんな発見があるのか、とても楽しみです。

文責:監物 うい子(J-DESC事務局/ JAMSTEC)
写真:肖 楠(JAMSTEC)

レポート2: 順調にコアリング中です

2021年8月26日(木)

現在、順調にコアリングが進んでいます。

今回の掘削では、水圧式ピストンコア(HPCS;Hydraulic Piston Coring System)を用いて、海底の泥(堆積物)を採取します。HPCSとは、水圧をかけて海底に筒を突き刺し(シュート)、筒の中に入った堆積物を回収します。コアを取った長さの分、掘り進むなどして、次のシュートを行います。比較的柔らかい地層で使われる方法です。

水圧式ピストンコアの作業工程図(JAMSTEC MarE3運用部提供)
水圧式ピストンコアの作業工程図(JAMSTEC MarE3運用部提供)
船上に上がってきたばかり、ほやほやのコア
船上に上がってきたばかり、ほやほやのコア
カッティングシュー 一番下に取り付け、海底に突き刺さる部分
カッティングシュー 一番下に取り付け、海底に突き刺さる部分

1回のシュートで最大9.5mずつコアを取るので、100mで11本程度のコアが採取されます。
早い時で、1時間半から2時間のペースでコアが上がってきました。
船上に上がってきたコアは、コアカッティングエリアで1.4mずつにカットし、両端にフタをして、テープで止め、どのサンプルなのかがわかるようにラベルを貼って、ラボに運びます。 この作業が結構大変。
コアの直径は4インチ。一見、細いように思えますが、泥がぎっしりつまっているので重たいし、安全のためにカバーオールにゴーグル、ヘルメット、グローブをつけて作業をするので暑いのです。一本終わった頃には次のコアが上がって来ると、思わず、「!!!」と思ってしまいますが、贅沢な悩みです。
コアカット担当のみなさん、本当にお疲れ様です。

コアを切る作業中
コアを切る作業中
切ったコアをラックに並べ、ラボに運ぶ
切ったコアをラックに並べ、ラボに運ぶ
この泥に、過去の地球の歴史が詰まっていると思うと、どきどきします
この泥に、過去の地球の歴史が詰まっていると思うと、どきどきします

文責:監物うい子(J-DESC事務局/JAMSTEC)

レポート3: Twitterの中の人、乗船中

2021年8月27日(金)

「ちきゅう」の 第913次研究航海にMarE3 スタッフとして、「ちきゅう」に乗船している肖です。私の船上での業務は本航海のアウトリーチと、乗船している学生さん達が安全に作業を行えるように監督することです。
アウトリーチを担当していても、掘削の現場に参加することは少ないので、今回の乗船は非常に貴重な機会です。コアがどのようにして掘削現場で採取されるか、そして研究者達はどのようにコアを分析するかを、分かりやすく伝えることを目指しています。

現場の撮影をする筆者
現場の撮影をする筆者

乗船中は毎日「ちきゅう」のTwitterを使って、船上で起きたことを発信しています。しかし、「ちきゅう」のインターネット環境はとても限られているので、直接船上からTwitterに投稿することはできません。そのため、陸上のスタッフにメールで文面を送って、投稿をお願いしています。タイムリーに発信するために、チームワークの重要さを改めて感じました。また、今後のアウトリーチ活動で使うための写真や映像を撮影するのも重要なミッション。撮影に集中しながら作業の邪魔にならないこと、かつ安全な場所にいることが必要ですが、意外とこなすのが難しいです。

乗船している中で、新しい発見がたくさんあります。その一つは掘削現場の多様なキャリアの発見です。例えば、掘削の状況をモニターしながら、掘削機器の操作指示を与えるOSI(Operations Superintendent:船上代表者)の仕事があります。本航海は若手のお二人が担当していますが、とても頼りになる存在です。どのような専門性と経験を持って「ちきゅう」の掘削機器を動かす指示を出すのか、非常に興味を持ちました。邪魔にならない程度にインタビューをしたいと思いました。

私は研究の成果に関わるアウトリーチの仕事をすることが多いですが、今回のように「ちきゅう」の掘削現場に参加させてもらって、多くのことを学び、それらを多くの人に伝えたいという気持ちが強くなりました。今回の乗船経験を今後の掘削科学に関わるアウトリーチの活動に生かしたいと思います。

EPM奥津さんと
EPM奥津さんと

「ちきゅう」公式Twitterを是非チェックしてください!

J-DESC Facebookでもこの航海の情報を発信しています

文責:肖 楠(JAMSTEC)

レポート4: 乗船中の楽しみ

2021年8月28日(土)

「ちきゅう」は24時間体制で稼働しているので、交代で仕事をします。
今回、私は深夜0時から12時までのシフトに入りました。

乗船前は、深夜に起きていられるか不安でしたが、意外とすぐに慣れてしまいました。
早起きは苦手なので、普段は朝日を拝むなんてとても無理ですが、すがすがしい朝日を、しかも陸地の見えない真っ青な海に囲まれた洋上から見ることができるなんて、すばらしい!贅沢な時間を満喫しています。
お天気が良くて、ラッキーです!

ヘリデッキで夜シフトの研究者たちと朝日を見る
ヘリデッキで夜シフトの研究者たちと朝日を見る

しかし、このシフトの時間帯だと、夕暮れ時は「真夜中」に当たります。
「ちきゅう」からの夕陽も見たくて、頑張って起きてみました。
朝の海、昼の海、夕陽が沈む海…。様々に表情を変える海と空を眺めていると、もっと地球のことを知り、大切にしたいと思えます。

ヘリデッキからの夕陽

食事は、5時~7時、11時~13時、17時~19時、23時~25時の4回、提供されるので、自分の業務時間に合わせて食べることができます。
ブッフェスタイルで種類も豊富なので、その時の気分で選べるのもうれしい。

ビュッフェスタイルの食堂

深夜0時から仕事が始まるので、私にとっての朝ごはんは23時~25時、昼食は5時~7時になります。
5時~7時の食事は、一般的な朝ごはんメニューになり、お味噌汁、梅干し、しらすおろしなどのご飯のお供や、目玉焼き、ベーコンなどパンに合うものが並びます。
(ごはんとパンはいつでも提供されています。)
朝日を拝んで、朝ごはんのような「昼ご飯」をとったところで、一日の半分が終わり。ちょっと不思議な気分です。

なお、船内では新型コロナウイルス感染防止対策が徹底されています。食堂にはビニールの仕切りがあり、席の間隔も通常より広くなっています。黙食を守るように注意があり、食事の前に30秒以上の手洗いを必ず行うために非接触で起動するタイマーが設置されています。カメラなどの持ち込みも禁止されてしまいました。
掘削作業は危険を伴うので、日ごろから安全にはとても厳しい「ちきゅう」ですが、新型コロナウイルスへの対応も厳しく行っています。
(*掲載している写真は、船上安全担当者の立ち会いの下、許可を得て撮影したものです。)

朝食の定番メニュー.私にとっては「昼ごはん」
朝食の定番メニュー。私にとっては「昼ごはん」

さて、そろそろお昼の12時。
先の船上レポートをしてくれた肖さんに引き継いで、仕事を終わりにしたいと思います。
おつかれさまでした。

監物うい子(J-DESC事務局/JAMSTEC)

レポート5: 次世代を担う学生たちの乗船!

2021年8月29日(日)

今回の航海では、次世代の人材育成を目的に「教育乗船枠」を設け、多数の応募者の中から選抜された6名の大学院生の方々が乗船しています。
*SCORE 教育乗船枠制度については「教育乗船枠」のタブをご覧ください。

「ちきゅう」に乗船するのは初めての方ばかり。これまでに掘削科学とは縁のなかった方もいらっしゃいます。
最初は緊張した雰囲気もありましたが、航海終盤の今ではすっかり打ち解けて、船上作業の頼もしい戦力として活躍しています。そんなみなさんをご紹介します。

トップバッターは、九州大学 修士1年の粕谷拓人さん。
もともと自然に興味を持っていて、気候変動の研究をしたいと考えたそうです。
現在は、海底堆積物コアの浮遊性有孔虫化石を用いて、昔の環境や気候を復元する研究を行っています。
乗船中は、コアのカッティング作業を担当しました。コアを採取するところを見てみたいと話してくれましたが、どんなことを思いながら作業されていたのでしょうか。

九州大学 修士1年の粕谷拓人さん

続いては、金沢大学 博士前期課程1年の橋本佑哉さん。
橋本さんも、浮遊性有孔虫を用いた、古環境の復元について研究しています。
子どもの頃は化石が好きだったという橋本さん。恐竜や動物の化石から、いつの間にか有孔虫の形の不思議さに魅せられ、これを用いて過去を復元できる研究の面白さを感じたそうです。

金沢大学 博士前期課程1年の橋本佑哉さん

修士課程の3人目は、東京大学 修士1年の高田真子さん。
高田さんは、微生物の研究を行っていますが、これまでに海洋底のコアを用いたことはなかったとのこと。短い準備期間で、今回の航海でできることを考えて実験の準備をしてきました。自分の手でサンプルを採取したり、研究者がみんなで協力したり議論して行う、乗船研究の現場の魅力にどっぷりハマっている様子。

東京大学 修士1年の高田真子さん

北海道大学の博士課程1年、古川圭介さん。古川さんは、過去に行われた四国沖の海底堆積物サンプルを用いた研究を行ったものの、十分な試料がなかったため、今回のサンプルに期待をかけているとのこと。
独特のゆる~い雰囲気が、みんなの人気者。

北海道大学の博士課程1年、古川圭介さん

続いて、北海道大学 博士2年の池田雅志さん。池田さんは陸域の古環境の復元をテーマに研究されています。IODPの航海にも乗船予定でしたが、COVID-19の影響で延期になってしまっています。今回はその前哨戦として良い機会になっているといいなと思います。

北海道大学 博士2年の池田雅志さん

博士課程3人目は、千葉大学 博士後期課程2年の桑野太輔さん。桑野さんは、「ちきゅう」の一般公開に参加した時に強い印象を受け、その時からいつか乗ってみたいと思っていたそうです。
石灰質ナノ化石を用いて古環境の復元をテーマに研究をされていますが、航海中はスミアスライドという堆積物のプレパラートを作成、確認して、おおまかな年代推定などに活躍されていました。

千葉大学 博士後期課程2年の桑野太輔さん


初めて乗船する「ちきゅう」で、掘削コア採取の現場に初めて立ち会い、様々な分野の研究者とともに、濃密な時間を過ごした10日間。この経験が、何らかのかたちでそれぞれの糧になることを願っています。

ご紹介したみなさんには、後日、乗船レポートを書いていただく予定ですので、お楽しみに!

監物うい子(J-DESC事務局/JAMSTEC)

レポート6: Expedition 913 無事終了!

2021年8月31日(火)

8月31日、「ちきゅう」は航海を終えて、出航した清水港(静岡県)に戻ってまいりました。
IODPの航海に比べたら短い航海でしたが、毎日が濃密で、ここを出港した10日前に比べると、乗船研究者や学生さんたちの距離がぎゅっと縮まって、ひとつのチームになったのが印象的です。

本航海では、3本の掘削孔で予定通りの100mまでのコアリングに成功しました。
1地点で3回のコアリングを行ったのは、今回、「連続的なコア」の回収が目的だったからです。
100mを一気に掘ることはできません。8月26日のレポートでご説明したように、最大9.5mずつ、コアを採取していきます(下図左)。そうすると、つなぎ目の部分はコアが欠損していたり、乱されている可能性が高いので、近い場所で複数の孔を掘り、トータルで連続的で高品質なコアを採取することを目指すのです。下図右で示すように、各コアを対比して両端部を除いた黄色い部分を継ぎ合わせることにより、切れ目のない完全な連続コアを復元することができます。これをスプライス(splice)と呼びます。高解像度の古環境解析を目的としたコアリングで一般的に用いられている手法です。

採取したコアは高知コアセンターに運ばれ、さっそく詳細な分析が始まるとのこと。
そして、状況が許せば、冬に研究チームが高知コアセンターに集まり、それぞれの研究に必要な試料を採取するサンプリングパーティーを行う予定です。
今回、船上ではすぐに行う必要のあるサンプリングや分析のみを行い、一部を除いてコアは半割せずに持ち帰ります。
航海は終わりますが、コアを使った研究はこれから始まります。
どんな新しい発見があるのか、私も楽しみにしています。

採取されたコア試料.このままパッキングして高知コアセンターに送ります
採取されたコア試料.このままパッキングして高知コアセンターに送ります

航海成功のために力を尽くしてくださった、すべての方に感謝して、航海中の船上レポートを終了します。

文責:監物 うい子(J-DESC事務局/ JAMSTEC)

教育乗船枠学生レポート1:『修士1年の夏、掘削船での決意』
粕谷 拓人(九州大学 大学院理学府・修士1年)

2021年夏、8月22日からの10日間で実施されたChikyu Shallow Core Program (SCORE) 航海(地球深部探査船「ちきゅう」Expedition 913)に私を含めた6人の大学院生が「SCORE教育乗船枠」で乗船し、船上の研究チームの一員として作業に携わりました。私は科学掘削が身近な“古海洋学”研究分野の修士学生で、これまで国際深海科学掘削計画(IODP)で採取されたコア試料を用いて研究を行ってきましたが、航海への参加は初めてでした。私が船上で作業を担当したコアカッティングエリアは、掘削フロアから研究者フロアへコアが最初に運ばれる場所です。キャットウォークで隔てられた先の掘削フロアでは危険を伴う中で昼夜問わず掘削に励む掘削チームの姿が見えました。また、指揮を執るJAMSTEC職員、ラボテクニシャン、それを支える大勢のクルーが24時間体制で働いているのを目にし(陸からのサポートも忘れていません)、研究者の手元に届くコア試料がいかに貴重なものであるか実感しました。これからの研究生活、コア試料を用いて研究が行えることに感謝するとともに、研究、成果報告、そして新たな掘削提案に責任感を持ち積極的に取り組むことを決意しました。

『修士1年の夏、掘削船での決意』
粕谷 拓人(九州大学 大学院理学府・修士1年)

教育乗船枠学生レポート2:『海底コアの掘削に携わって』
橋本 佑哉(金沢大学 大学院自然科学研究科・博士前期1年)

今回J-DESC教育乗船枠として主席研究者を池原実先生とするExp.913 SCORE航海に参加した。本航海の主目的は、有数のテフラ層が期待される四国沖においてブリュンヌ正磁極期を完全記録する堆積物コアを採取し、中期ブリュンヌイベントとの比較において黒潮がスーパー間氷期に対しどのように応答したかを明らかにすることであった。しかし採取したコアは陸起源物質の流入イベントを多く含み、堆積学的には良いコアであったが、結果、当初の目的年代まで辿り着かなかった。このことから、事前リサーチを幾度となく行なった上でもこのように思いがけない事が起こりうるので、改めてコア掘削の難しさを痛感した。この様な経験は研究室でコア試料を扱うだけではできず、実際に乗船し、コア掘削のリアルタイムな現場に携わってのみできる貴重な体験であった。この様な機会を頂いて感謝を示すとともに、今回得られた知識を糧に今後の研究活動に勤しみたい。写真はコアパッキングを行う様子である。

『海底コアの掘削に携わって』
橋本 佑哉(金沢大学 大学院自然科学研究科・博士前期1年)

教育乗船枠学生レポート3:『「乗船経験」で終わらせない』
高田 真子(東京大学大学院新領域創成科学・修士1年)

出発日、見上げるほど大きな「ちきゅう」に乗り込んだ瞬間の胸の高鳴りは忘れられません。掘削科学研究の現場を肌で感じられる貴重な機会であり、絶対に何か掴んで帰る!と覚悟を決めて臨んだ10日間でした。航海には様々な分野の方が参加されており、研究やキャリア選択のお話を伺えたことは今後の進路を考える上で視野を広げるきっかけとなりました。またサンプリングには想像以上に多くの費用や時間、労力がかかっていることを知り、コアは言わば掘削に関わる方々の努力の結晶であると感じました。私自身もサンプルをリクエストさせて頂いたため、最大限活用したいと思います。
航海を振り返ると、出逢いに非常に恵まれていました。初めは緊張していたのですが、一緒に深夜まで作業をしたりデッキに寝転んで星を眺めたりするなかで打ち解けてお話しできました。船上生活の醍醐味であり、嬉しかったことの一つです。お世話になった方々とのご縁に感謝しつつ、一人前の研究者として再び「ちきゅう」の航海に参加する日を夢見て、精進して参ります。

『「乗船経験」で終わらせない』
高田 真子(東京大学大学院新領域創成科学・修士1年)

教育乗船枠学生レポート4:『はじめての航海』
古川 圭介(北海道大学大学院環境科学院・博士1年)

海底から引き上げられたばかりの堆積物は冷たく、四国沖の暖かく湿った空気は堆積物の詰まったパイプに触れ、結露を引き起こしていました。パイプに穴を開けるとガスと共に勢いよく泥が吹き出し、コア情報を記載するホワイトボードを汚しました。堆積物はパイプと共に手際良く切り分けられ分析班へと送られていきました。
海底堆積物が実験室に届くまでどのようなプロセスを経ているのか、これは海底堆積物を研究の試料として用いている私にとって興味のある疑問の一つでした。微化石の出現、消滅で年代をざっくり拘束し、磁化率からホール間の関連を見る現場に立ち会うことで、core requestのセンスが一つ上がった気がします。
今回の乗船では微化石を研究している方々と会話する機会がたくさんありました。微化石に対する情熱とともに、微化石分析から分かること、大変なことを知れてよかったです。充実した航海でした。

教育乗船枠学生レポート5:『一筋縄ではいかない。これが科学掘削!』
池田 雅志(北海道大学大学院理学院・博士2年)

2021年8月22日から31日まで地球深部探査船「ちきゅう」によるSCORE航海 Expedition 913が行われました。この航海は四国沖にて完全な連続堆積物を回収することで過去100万年の黒潮変動を復元することを主目的とし、筆者は今回から設けられた教育乗船枠で乗船しました。掘削に伴う機械トラブル、更新されていくサンプリングプラン、寝ている間にも止まることなく進んでいく船上での作業、水平線に沈んでいく太陽に満点の星空、そして夢にまで出てきた、新たなコアが船に揚がったことを知らせる「Core on Deck!」の放送。昼夜問わず、目まぐるしく変わる状況に臨機応変に対応していく体験はまさに“プチIODP”と呼べるものでした。研究対象である広大な自然を前に、過去の姿に思いを馳せ、想定外な事態や新しい発見に多くの研究者と一喜一憂できるというのは科学掘削航海ならではだと感じました。次はぜひIODPの乗船研究者として「ちきゅう」に乗船したいと思います。

『一筋縄ではいかない。これが科学掘削!』
池田 雅志(北海道大学大学院理学院・博士2年)

教育乗船枠学生レポート6:『憧れの「ちきゅう」に初乗船!~SCORE Exp. 913 乗船報告~』
桑野 太輔(千葉大学大学院融合理工学府・博士2年)

2021年8月23日から31日にかけて、「過去100万年間の黒潮変動の完全復元」をテーマとしたSCORE Exp.913が実施され、四国沖で3本のコアが掘削されました。本航海では、IODP研究航海への参加に向けたステップアップのために大学院生が乗船できる「教育乗船枠」が設定されており、私はこの制度を利用して本航海に参加しました。私は、2015年に開催された「ちきゅう」の一般公開に参加して以来、「ちきゅう」に乗船することを1つの目標として研究活動を行っていたため、非常に夢のような機会をいただけることとなりました。船上では、コアキャッチャーから得られる堆積物のスミアスライドを作成し、石灰質ナノ化石の観察により年代を決定するといった貴重な経験をすることができました。今後の研究活動では、得られたコア試料を用いた高解像度での黒潮変動の復元に貢献していきたいと考えています。最後に、このような乗船機会を設けてくださったJ-DESC、および主席研究者の池原実教授をはじめとした研究チームの皆様に感謝申し上げます。

千葉大学 博士後期課程2年の桑野太輔さん
船上で初の顕微鏡観察を行った筆者
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