Exp. 403: Eastern Fram Strait Paleo-Archive
船上レポート
船上レポート
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船上レポート1
(2024年06月10日受領)
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船上レポート2
(2024年06月18日受領)
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船上レポート3
(2024年07月28日受領)
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特別レポート
(2024年08月29日受領)
船上レポート1:アムステルダムから出港!
酒井 雄飛(京都大学 博士研究員)
皆さまこんにちは。京都大学の酒井です。
Exp.403の最初の乗船レポートをお送りします!
本航海では、北大西洋・フラム海峡東部の海底6つの地点を掘削し、過去数百万年間の気候変動に対する氷床・海氷や海洋循環の応答と相互作用を解明し、近未来の気候や氷床・海氷変動に対する将来予測モデルの高精度化につなげることを目指します。
今回はアメリカの掘削船JOIDES Resolution号のIODP最後の航海。
乗下船地はオランダ・アムステルダムです。
日本からは国立極地研究所の菅沼教授、産業技術総合研究所の飯塚研究員とともに乗船しています。
お二人とも乗船経験が豊富で、乗船前の準備から色々と教えて頂きました。
私はPhysical Properties Specialist 兼 Downhole Measurements Specialistとして乗船しています。
私自身、海外での研究は初めて、IODPも初めて、船上での実験も初めてです。
乗船研究者やラボテクニシャンの方々としっかりコミュニケーションをとって慣れていきたいと思います!
今回は通常業務に加え、原位置の3次元応力状態を計測するASR(Anelastic Strain Recovery: 非弾性ひずみ回復)実験を船上で行い、海洋底拡大および氷床の成長・融解に伴う地殻応力変化の解析による地殻変形のメカニズムとその影響の解明を目指します。
5月には京大の実験室から100kgオーバーの実験機器を輸送しました。
輸出入を伴うため、
- 外為法の該非判定手続き
- 安全データシート確認
- オランダ側との調整
- 再輸入手続き
など、指導教員、研究室の秘書さん、大学の事務方、フォワーダー業者様には多大なるご協力をいただきました。
無事に船上で貨物を見つけたときは心から安心しました!
ラボオフィサーらとともにセットアップを進めています。
JR号は運河を抜け、北海を抜け、現在ノルウェー沖の大西洋上を航行しています。
低気圧の影響もあって波が高く、若手の多くは船酔いに苦戦中…
最初のサイトに着くまでもうひと踏ん張り、頑張ります。
それでは。次のレポートをお楽しみに!
船上レポート2:ネットワーク環境が変えた船上生活
飯塚陸(産業技術総合研究所)
今回初めての船上レポートになります。産業技術総合研究所の飯塚睦です。 船上生活に慣れるのに時間がかかり、更新が遅くなってしまいました。
私は、2回目のJOIDES Resolution (JR) で、前回は約5年前に南極海の航海 (Exp. 382) に参加しました。
2回目なので、驚きはないだろうと乗船前は落ち着いていましたが、JRを目の前に、上がってきた海底堆積物コアを目の前に、スバールバル諸島の美しい景色を目の前に、様々なことに心を動かされる毎日です。前回の航海から5年が経ち、船上でのシステムで変わったことが多くありました。
一番驚いたのは、ネットワーク環境です。「フィールドワーク=デジタルデトックス」これが今までの常識でした。前回の航海でもインターネットルームという部屋のPCで少しはネットがつながったものの、自分のデバイスからは繋げることができませんでした。しかし、コロナ後から自分のPCをネットワークに繋げることができ、さらにスターリンクも積んでいるため、スマホからもスムーズに連絡を取ることができます(1週間の8GB制限)。知人との連絡、SNSの更新、ネット検索。今までの船上生活とは大違いです。
便利になって良かったなと思う感情が8割くらいですが、船内でしかコミュニケーションを取れないという制限、風景との対話など、デジタルデトックスだからこそできたことも多く、少しだけ寂しく思います。
ネットがつながって当たり前のフィールドワークになっていく転換期だと思い、文章に納めさせてもらいました。このように船上生活をリアルタイムで更新できること、嬉しく思います。
今ではガラ空きのインターネットルーム
船上レポート3:Leg403,そしてIODP最後の掘削
菅沼悠介(国立極地研究所)
若手ばっかりに書かせているという声も聞こえたので、もう航海も残り数日ですが、おじさん研究者もレポートを書きたいと思います。
僕は国立極地研究所に勤めていまして、ふだんは南極の氷床融解を研究していますが、今回は始めて北極圏に来ました。ジョイデス・レゾリューション (JR)号も21年ぶり!です。
まあ北極圏と言っても外がちょっと寒いだけで、シロクマも氷山も現れず、とくに実感は沸かず。南極ではいつもは野外でキャンプして露岩や湖沼の調査をしているので、船内は暖かく、ご飯も美味しく、毎日シャワーを浴びられて、フィールドとしては正直言って超楽勝。
ただ、1日12時間、週7日、連続8週間労働という、労働基準法はどこにいった?という環境で、おじさんの体力がいつまで持つかが問題でしたが、無事にほぼ最後まで乗り切ることができました。良かった。
さて一昨日、この航海での最後の掘削が終わりました。
実は、Leg403はJR号にとって最後のIODP航海だったので、最後の堆積物コアが上がってくるとき、船内は興奮と喪失感の入り混じったなんとも言えない雰囲気に。涙ぐむ人もいたりして、僕もちょっとだけ感傷的になったりしました。
2人の主席研究者がコカ・コーラで乾杯
そして、最後のコアが半分に切られて記載用テーブルに。
記念すべき最後のコア記載を僕が担当しました。JR号最後のコア!という感慨深さは実はあまりなく、これで7週間の連続労働から開放されることが嬉しい、という気持ちでしたがそれを隠しつつ、同じシフトの仲間が集まって記念の一枚を撮影。
昨日までの喧騒も収まった今日はラボも静かで、JR号は寄港地のアムステルダムに向けて疾走中。 北極圏離脱も間近ということで、ずっと沈まなかった太陽も水平線に近づき、7週間ぶりに夕日が見られました(北極圏だったのでずっと白夜で日が暮れることがなかった)。
曇っていますが久しぶりの夕暮れ。明日には7週間ぶりの日没が見られるでしょう。
ほぼ専有させてもらっていたラボの一角も、すっかりキレイに。
博士課程の時に乗船したとき以来のJR号でしたが、英語も含めてすべてが必死で大変だった前回と比べて、今回はかなり余裕もって過ごせました。一方、デジタル化も含めて、新たな堆積物の記載方法も学ぶこともでき、とっても有意義な2ヶ月でした。色々とサポートしてくださった皆様、ありがとうございました!
これで僕らの航海はおしまいです。さらばJR号!
それでは皆さん日本で会いしましょう。
特別レポート:航海を振り返って
酒井 雄飛(京都大学 博士研究員)
皆さま、こんにちは。京都大学の酒井です。
Exp.403が終了して3週間が経ってしまいましたが、今回は航海を振り返ってレポートを書きたいと思います。
まず書かせていただきたいのは、約40年の歴史がある科学掘削船JOIDES Resolutionへの敬意と、そのIODP最後の航海に乗船させて頂いたことへの感謝です。
階段に掲出された歴代の航海のTシャツロゴや、ミーティングルームにある図書の古さを見るにつけ、船の歴史の深さを感じました。
また、測定の自動化、デジタル化、ネットワーク環境など、非常によく改装され快適な研究・生活環境が整っていたJOIDESですが、その洗練度合いから逆に歴史の深さを感じられました。
有形物だけではありません。JOIDESのテクニシャンやエンジニアの方々は皆さん経験豊富で、急な予定変更、限られたシップタイム、機器の不具合等さまざまな困難の中でも、これまでの航海で蓄積されてきたノウハウや固い信頼関係を基にプロフェッショナルとして運用に当たっておられました。
そうして掘削科学をリードしてきた、そして私自身も短いながら2か月間当たり前のように過ごさせてもらったJOIDESが、退役してしまうという事実を信じられません。
下船当日にはJRSOにより記念イベントが開催され、会場にはJRSOをはじめIODP関係者の方々が集結しました。
ODP時代からの歴代の航海の写真がスクリーンに投影され、皆さん口々に「これが俺の最初の航海だ!」「この頃はまだシャワールームがあったな」などと歴史に想いを馳せていました。
(一緒に乗船させて頂いた極地研の菅沼さんが乗船されたODP Leg.207の写真も投影され、若かりし頃の菅沼さんを見て皆で盛り上がっていました。)
もうJOIDESとの再会は叶わないですが、歴史ある船に乗り、節目の航海に参画できたことに喜びと感謝を感じています。
さて、私は現在博士後期課程の学生ですが、航海中、乗船研究者として研究計画を持ち込むことで、常に自分を最前線に立たせる経験を積ませて頂きました。
例えば、船上では実験や測定の実施に際してテクニシャンの方々やEPM、Co-Chiefから自分の研究について逐一意見を求められる。また、特別に掘削直後のコアのwhole-roundサンプリングを許可してもらいましたが、他の研究で重要となるコアを取ってしまわないよう、EPM、Co-Chief、他の乗船研究者らと逐一交渉が求められる。得られた貴重な試料やデータに対して自ら責任をもって測定等をやり遂げる。といったようなことです。
これはまさに自分が博士課程に対して求めていたことで、この大きな舞台でその機会を頂けたことを有難く思います。
また、世界各国から選出された歴戦の研究者が目と鼻の先で一緒に仕事をしているという環境は、これから研究の世界に身を投じようとする学生にとって何物にも代えがたい貴重な環境でした。これはIODPの航海でしか経験できないものだと思います。そして学部生や高校生に対して2回のライブ配信を行いましたが、そうした機会・環境があるということを自分の言葉でお伝えすることができました。
こうした経験を通じて、国際的・学際的な研究の場において日本人や日本のアカデミアが発揮できる強み・果たすべき役割は何か、ほんの少しだけヒントが見えたような気がしています(非常に偉そうなことを言っています)。海外での研究を通して自身や自国のバックグラウンド、置かれた環境、立場などを相対的かつ総合的に捉えることが重要だと感じています。
こうした貴重な機会をいただけることは当たり前ではないですが、アムステルダムに近づき航海の終わりを実感するにつれ、これを当たり前にできるくらいの力をつけていきたいと強く感じました。
まずは今回の航海で得られたデータをしっかりと論文に仕上げるべく取り組んでいきます。
改めまして、本航海の実現に尽力されたすべての皆さま、また渡航に際しご支援いただいたすべての皆さまに、この場をお借りして御礼申し上げます。
そして掘削科学に関わる皆さま、私自身まだまだ未熟者ではありますが、学会などでお会いできた際はご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
それでは!
そして、さようならJOIDES。