Exp. 501: New England Shelf Hydrogeology(Joint IODP3/NSF Expedition)
船上レポート
船上レポート
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船上レポート1
(2025年07月10日受領)
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A Glimpse into IODP3-NSF Expedition 501: Science and Life on the Liftboat Robert
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船上レポート2
(2025年07月14日受領)
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船上レポート3
(2025年07月28日受領)
船上レポート1:A Glimpse into IODP3-NSF Expedition 501: Science and Life on the Liftboat Robert
Shuai Feng(京都大学)
IODP³-NASF Expedition 501, titled New England Shelf Hydrogeology, set out to investigate hidden freshwater beneath the seafloor near Massachusetts and how it connects to coastal water systems around the world. By collecting samples and data offshore, we hope to better understand and protect these valuable underground water resources for future generations. As a member of the Physical Properties Group, my primary responsibility onboard is operating the MSCL (Multi-Sensor Core Logger) to measure the physical properties of the recovered cores.
The expedition takes place aboard the Liftboat Robert (Pic. 1), a self-elevating vessel specially outfitted for shallow-water drilling. Unlike conventional IODP vessels, Robert operates closer to shore and anchors directly onto the seafloor using its jack-up legs, creating a unique working environment both scientifically and logistically.

Photo by Everest@ECORD_IODP3_NSF
Unique Logistics: Helicopters and the Transfer Basket
One of the most exciting—and slightly nerve-wracking—features of Expedition 501 is the way personnel are transferred during offshore operations. Because Robert remains stationed offshore throughout the expedition, crew changes are carried out exclusively via helicopter or transfer basket, a steel-framed platform lifted by crane between vessels (Pic. 2 & 3).

during a crew change operation.

I arrived at Robert by helicopter, which was a truly thrilling and unforgettable experience—the aerial view of the vessel surrounded by open ocean is something I’ll always remember. When it’s time to leave, I’ll be transferred by transfer basket, and I’m genuinely looking forward to that next adventure.
Daily Life and Leisure at Sea
Despite the demanding research schedule, life onboard Robert includes moments of relaxation and connection. One of the most cherished daily rituals is gathering on deck to watch both the sunrise and sunset over the Atlantic (Pic. 4). Whether it’s the golden calm of early morning or the soft glow of dusk, these quiet moments offer a peaceful contrast to the busy rhythm of shipboard work.

Another creative and collaborative activity has been building our own “mile board” (Pic. 5)—a colourful signpost showing the distance from Robert to where each participant is based. Scientists, technicians, and crew members all contributed to the project, decorating their signs with personal touches and symbols that reflect their region or culture. It’s become a lively symbol of the diverse team that has come together here offshore, united by science and shared experience.

船上レポート2:ユニークな Exp.501 研究航海
林 武司(秋田大学)
皆さん、こんにちは。秋田大の林です。私は、2009年にアメリカ東海岸のニュージャージー沖で実施されたExp. 313(New Jersey shallow shelf)以来のIODP研究航海への参加となります。なお、Exp. 501は2025年より開始されたIODP3の最初の研究航海であり、NSF(US National Science Foundation)とのジョイント航海です。このExp. 501の第2回船上レポートでは、改めて、本研究航海の特徴やユニークさについて紹介します。
Shuaiさんによる第1回レポートにあったように本研究航海は、アメリカ北東部のニューイングランド地方に属してロードアイランド州とマサチューセッツ州にまたがる地域の大陸棚下に賦存する淡水性の地下水に着目するものです。皆さんは、「海底下に淡水性地下水があるのか?」と思われるかもしれません。しかし、これまでの様々な調査・研究により、この地域に限らず世界各地において沿岸海底下から淡水性地下水が発見されており、特に大陸棚下では沖合数十km~100km以上にわたって淡水性地下水が広がっている場合のあることが明らかとなっています。アメリカ東海岸では、本研究航海の対象地域であるニューイングランド地方から南部のフロリダまで各地で淡水性地下水が発見されており、このうちニュージャージー沖の淡水性地下水についてはIODPのExp. 313においても調査が行われています。ちなみに、日本においても各地で沿岸海底下から淡水性地下水の湧出していることが古くから漁業関係者などによって知られており、それらの起源や湧出機構などが様々に調査・研究されています。
このような話を聞くと、皆さんは「それでは、大陸棚下に広がる淡水性の地下水は一体どこから来たのか?なぜ塩水化しないのか?」など様々な疑問を持たれることでしょう。本研究航海はまさに、それらの謎を解き明かすことを目指しています。本研究航海は、対象地域の大陸棚下に広がる淡水性地下水の起源や涵養年代、流動機構、淡水性が保存されるメカニズムなどを明らかにするために、地質の層序や物理・化学特性、鉱物組成、地層中に賦存する水(間隙水)の様々な化学性状などを調査するとともに、掘削孔を用いて揚水試験を行い、淡水性地下水を胚胎している地層の透水性を調査しています。さらに本研究航海では、このような海底地下環境下に存在する微生物叢を把握するための調査も行われています。これらの調査によって得られる科学的知見は、海水準変動を含む時間スケールにおける陸域-海域間の水・溶存物質(炭素や窒素などの栄養塩や様々な元素等)の輸送機構やそれにかかわる地下微生物の活動・役割の解明等に大きく貢献すると期待されています。また研究成果の応用として、例えば、淡水性地下水の各種用水としての利用の検討や、二酸化炭素地中貯留や放射性廃棄物処分等への活用が想定されます。
このように本研究航海は、海域での調査でありながら淡水に着目している点や、水を介した陸域と海域の結びつきに着目している点などに、その大きな特徴とユニークさがあります。次回のレポートでは、海上で淡水性地下水を調査することの難しさなど、本研究航海の活動の様子について報告したいと思います。
船上レポート3:海上から海底下の淡水性地下水の調査
林 武司(秋田大学)
皆さん、こんにちは。秋田大の林です。前回に引き続いて、私がExp. 501の第3回船上レポートを報告します。
前回にお伝えしたように本研究航海では、「海上から海底下の淡水性地下水を調査する」という難しい課題にチャレンジしています。いずれのIODPの研究航海においても、海水による地質コアや間隙水の汚染は大きな課題の1つですが、前回に述べたように淡水性地下水や地下微生物を主な対象とする本研究航海では、この点は特に重要な課題の1つです。ライザー掘削(二重管構造による掘削泥水循環型の掘削方法)が可能な地球深部探査船「ちきゅう」であれば、掘削泥水の成分を調整したり泥水中に様々な指標物質を添加したりするなどの対策を行えますが、残念ながら本研究航海の対象である大陸棚では水深が浅すぎるため、「ちきゅう」で調査を行うことができません。このため本研究航海では、第1回レポートでShuaiさんが紹介したように特定任務掘削船(Mission Specific Platform、以下MSP)が使用されています。今回のMSPでライザー掘削を行うことはできませんが、質の高い試料やデータを得られるように、多様なバックグラウンドと豊富な経験を有する様々な分野の研究者からなるグループと、やはり豊富な経験を有する掘削エンジニアのグループが意見や知恵を出し合い、創意工夫を重ねて作業にあたっています。
またMSPでは、「ちきゅう」や「JOIDES Resolution」のような専用の掘削船(プラットフォーム)と異なり、船上・船内でのスペースや調査・分析機器等が限られています。このため、本研究航海では写真①のようにコンテナ群が船上の一角に配置され、これらのコンテナの中で各種の作業を効率よく行えるように工夫がなされています。コンテナには、例えば、地質コアから間隙水を抽出する作業を行うためのものや、地質コアの物性の測定を行うためのもの、研究者がデータの整理や解析等を行うためのものがあり、さらに調査全体の進行やデータベースを管理するためのものや試料を冷蔵・冷凍保管するためのものなどがあります。研究者たちはこれらのコンテナに分かれ、役割を分担しながらも常にして作業を進めます。例えば、地質コアについては、各コンテナで間隙水の抽出や物性の測定などの作業を行ったうえで冷蔵保存されます。採取した間隙水は、速やかに分析する必要がある項目について分析を行うとともに、各研究者が行う予定の多様な分析項目に応じてmL単位で細かく分取したうえで冷蔵もしくは冷凍保管されます。これらの作業は、いずれも丁寧かつ迅速に進められていきます。その一方で、掘削孔を用いた揚水試験においては、時間をかけて慎重に揚水作業を行い、孔内を十分に洗浄した後に試験を行う必要があるため、孔内の状況を細かく監視しながら作業を何時間も継続して行います。このような様々な作業について、研究者たちは昼夜二交代の24時間体制で取り組んでいます。
ところで現在、私たちはMartha's Vineyard島とNantucket島の南方に位置する地点で調査を行っています。この付近では、Shuaiさんの第1回レポートにあったような美しい夕日をMSPから眺められるだけでなく、様々な海鳥や昆虫がMSPに飛来したり、クジラやイルカの群れがMSPの近くを通過したりするなど、多様な生物を見かけます。さらにMSPからは、洋上風力発電の巨大風車群の建造の様子が見えたり(写真2)漁船が行き交う様子が見えたりと、人間社会の様々な営みも目にすることができます。このような景色に遭遇できることも、大陸棚を調査対象とする本研究航海ならではの特徴といえるかもしれません。研究者は、様々な景色を眺めたり談笑したりすることで気分転換したりリラックスしたりしながら、緊張の続く作業へと戻っていきます。
さて、現在の地点での一連の作業が終了すると、次の調査地点へと向かって移動を開始します。次の調査地点では、どのような成果を得られるのか、またどのような景色を見られるのか、とても楽しみです。

コンテナ群の手前右側には、Shuaiさんの第1回レポートに紹介されていた「mile board」が写っている。コンテナ群の奥側はボーリングマシンを設置してあるスペースであり、ボーリングパイプが積まれている様子がみえる。

この発電施設は、アメリカ初の実用規模の洋上風力エネルギープロジェクトであり、62基の風車が建造される予定である。