2023.08.23
訃報:Judith McKenzie 氏 ご逝去
元スイス連邦工科大学チューリッヒ校 (ETH Zürich) 教授の Judith McKenzie 氏が、2023年8月11日にご逝去されました。ここに生前のご活躍に敬意を表し、ご冥福をお祈りするとともに謹んでお知らせ申し上げます。
McKenzie 氏は著名な炭酸塩堆積学者・地球化学者であり、Ocean Drilling Program (ODP)期以来の国際海洋科学掘削の発展に多大なる貢献をされました。
McKenzie 氏の経歴および追悼記事は下記をご覧ください。
ETH Zürich
https://erdw.ethz.ch/en/news-events/news/archive/2023/08/in-memoriam-judith-mckenzie.html
ECORD
https://www.ecord.org/in-memory-of-judy-mckenzie/
McKenzie 氏と親交が深かった 東 垣 氏 より追悼文を頂きましたので、以下に掲載させていただきます。
In Memory of Judith McKenzie
Judy, who was admired by many researchers in the world, passed away on the 11th August, 2023. Those who know her well in the world admired not only for her research achievements but also as an enthusiastic, charming mentor with a highly positive attitude towards science and people. Since she was an associate professor at the University of Florida in Gainesville, she has been involved in Ocean Drilling Program (ODP) and demonstrated her outstanding talent as a chair of Sedimentology and Geochemical Pross Panel (SGPP/ODP). At that time Judy seemed to be contributing to the ODP even at the cost of her own research time.
Judy has devoted her life not only to her own research but also to building international research frameworks. Even in Japan, you can see her footsteps. After she retired from ETH in 2007, she had served as an advisor since 2009 to the newly established Kochi Core Institute for Core Sample Research, JAMSTEC (KCC) and advised KCC to play a role in promotion for international research cooperation and new science, including the nurturing of young researchers.
As comments and e-mails lamenting her death are sweeping the world, it should be important not to simply be pessimistic, but to inherit Judy's will, and to continue to maintain and develop the international research framework. However, national interest in science, accountability to the taxpayers as well as social contribution is now asked for. Moreover, it is also requested to handle the research security and the research integrity that is fulfilled by research institutions and research programs. Today we would hesitate how we can maintain and develop our international research framework under the circumstance. Looking at us like that, Judy will say ”So what?”
Judith McKenzie さんを偲んで
世界の多くの研究者から愛された Judy McKenzie さんが今年8月 11日に亡くなりました。とても残念でなりません。Judy は、湖沼や海洋における炭酸塩の成因研究において、とりわけ、それまでの地球化学的視点に微生物の働きを取り入れた新たな解釈をおこない、この分野に大きな進展をもたらしました。でも、世界の多くの研究者がJudyを慕う真の理由は、彼女のチャーミングな振る舞いと科学に対する情熱、さらに特に若い研究者の育成を含め研究基盤の強化と国際化への貢献に対する憧れと感謝の念からだと思います。
Judy は ETHにおいて Ken Hsü 先生のもとで地球化学を学び、その後地球化学の研究者として、フロリダ大学ゲインズビル校での助教授を経て、ETHの Ken Hsü 先生の講座を引き継ぎ教授として米国からスイスに渡ります。その間、 ODPの堆積学・地球化学プロセスパネルのチェアーとしてその能力を発揮し頭角を表します。当時のパネルは、研究者からの掘削提案を審議し、co-chiefや乗船研究者候補の指名も含めその実効性を検討し、これを上部の委員会へ提案する機能を有しておりました。パネルは6名の米国側委員とドイツ、フランス、英国、日本などの非米国側委員6名で構成され、膨大な量の紙ベースの申請書を3日間かけチェアーとして Judy が引っ張るといった具合です。Judy はパネルの事前準備のため時間を費やすことを厭わず、真摯に対応することで委員からは厚い信頼を受けていました。ちなみに、このパネルを通して、小川 勇二郎さん、木村 学さん、松本 良さんら日本からの co-chiefを選出させるなど日本にとっても重要なパネルでした。
Judy は、このようなパネル・チェアーを担うことで、地球科学における研究における国際共同の枠組みの重要性に早くから目を向け、この推進に邁進します。とりわけ、研究拠点を米国からスイスに移すことで、この動きは加速し、欧州の先進的であった国際共同研究プログラムに大きな影響を果たすことになりました。このような Judyの足跡は日本においても見てとれます。ETHを 2007年に退職後、国際研究枠組み協議などで多忙の中、Judy は 2009年より5年間に渡り高知コア研究所のアドバイザーに就任します。ここでは、同研究所の地下圏微生物学に興味を持たれる一方で、高知コア研究所が国際研究の拠点としてどうするべきか、国内外の若い研究者の育成にどう貢献すべきかについて幾度となく助言すると共に、コア保管以外に先端的な分析解析機能を有する高知コア研究所を新たな研究拠点モデルとして評価し世界に向けて紹介し、同研究所を通して若手研究者の人材交流プログラムに尽力してくださいました。他方、アドバイザー会議後はスケジュールが許す限り日本滞在を前向きに楽しんでいました。
この間、Judy の訃報は世界を駆け回りました。この悲しみを多くの人々が受け止めております。しかし、単に感傷的に受け止めるだけでなく、もう一度、彼女の足跡や意志を思い起こすことが彼女に報いることかと思います。その一つは、国際的な視点で研究拠点を維持し、これを研究者が活用できる国際的なプログラムを創出継続させることだと思います。勿論、足元では、国益に資する科学振興、国民への説明責任と社会貢献(研究成果の社会実装)がより強く求められ、同時に、研究者のモラルに対する研究セキュリティや研究インテグリティなどが研究機関や研究プログラムに果たされようとしています。このような研究環境の中で、国際協働研究の枠組みを維持し発展させることに躊躇しているのが現在の我々の姿ではないかと思います。このような我々をみて、Judy はきっと「それで何よ」と言っていると思います。
2023年8月22日
東 垣