2023.04.20

ゴジラメガムリオンに関する学術関連情報【追加情報4/20】

2023年2月14日に海上保安庁から、海底地形名小委員会にて、日本が提案したゴジラメガムリオン関連地形名が承認されたことが、プレスリリースされました(※海上保安庁プレスリリース参照)。

海洋底拡大に伴う断層運動によって生じた特徴的な海底地形であるゴジラメガムリオンは、固体地球惑星科学、海洋底科学、地球掘削科学分野にとって重要な研究対象です。本記事では、ゴジラメガムリオンの紹介と各研究機関から発表された学術情報などをJ-DESC会員向けにまとめました。

海底地形名小委員会(Sub-Committee on Undersea Features Names: SCUFN)とは

国際水路機関とユネスコ政府間海洋学委員会によって共同で設置された、世界の海底地形名を標準化するための学術的な委員会です。

https://www.gebco.net/about_us/committees_and_groups/scufn/#role

誰でも、領海外の海底地形についてSCUFNへ提案することができますが、我が国では海上保安庁が委嘱した有識者で構成される「海底地形の名称に関する検討会」における検討を経て提案を行っています。海底地形には、原則として、近傍地名、船名、海洋に貢献した故人名・機関名等に因んだ名称を付けることができます。また、同類の海底地形の集合に対しては、星、鳥、暦等、グループの名称を付けることができます。

ゴジラメガムリオンに関して、海底地形名の由来と学術的意義など

(1) メガムリオンとゴジラメガムリオン
メガムリオンは、海洋底拡大に伴う大規模な正断層の運動に伴い、海底面にマントル物質などが露出したドーム状の高まりのことです。この表面に畝状の構造を持つことが大きな特徴です。メガムリオンは、大西洋中央海嶺やインド洋中央海嶺などで発見されており(例えばTucholke et al., 1998, Journal of Geophysical Research; Escartín and Cannales, 2011, AGU EOSなど)、幅20 km x 全長30 km程度の大きさを持っています。
ゴジラメガムリオンは、日本列島の南に広がるフィリピン海プレート上にあり、日本政府による大陸棚画定調査の際、パレスベラ海盆のパレスベラリフトと呼ばれる拡大が終了した古拡大軸付近で発見されました(Ohara et al., 2001, Marine Geophysical Researches)。

ゴジラメガムリオンは全長125 km x 幅55 kmほどの大きさを持っています(図A)。これは東京都の面積の約3倍、他のメガムリオンの約10倍もあり、現在見つかっているメガムリオンの中で地球上最大の面積です。そのため、その巨大さから、東宝の怪獣「ゴジラ」の名が引用され、命名されました。そしてゴジラメガムリオンは、2021年の海底地形名小委員会により「ゴジラメガムリオン地形区」として承認されました。世界に分布するメガムリオンの中で、名称が国際的に登録されたのは、このゴジラメガムリオンが初めてとなります。
ゴジラメガムリオンを含むメガムリオンは、通常は玄武岩からなる海洋底において、海底下数 km以深に存在するはずの海洋下部地殻物質やマントル物質がぽっかりと現れている領域です。そのため、海洋プレートを構成する海洋下部地殻物質やマントル物質に我々が簡単にアクセスできる貴重な「窓(テクトニックウィンドウ)」となっています。
そういった海洋下部地殻物質やマントル物質が露出する領域が大規模に広がっているゴジラメガムリオンは、フィリピン海プレートにおいて背弧海盆がどうやって生まれたのかを理解するための非常に重要な研究対象です。これまで日本を中心とする国際的研究グループによって、ゴジラメガムリオンの調査研究が積極的に進められてきました。その結果として、フィリピン海プレートの組成・構造に関する重要な研究成果*が得られています。

*研究成果に関しては下記のURLを御覧ください。
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/GIJUTSUKOKUSAI/KENKYU/index.html

図A. フィリピン海の全体図(左)とゴジラメガムリオンの全体図(右)。パレスベラ海盆内の赤枠部分がゴジラメガムリオンの場所を示す。

(2) ゴジラメガムリオンを構成する地形

ゴジラメガムリオンを構成する特徴的な海底地形14地点に対して、背中から見たゴジラの各部位の部位の名称が付与され、2022年の海底地形名小委員会によりそれぞれ承認されました。

例えば図Aに示す、3や5はゴジラの肩(Shoulder)、12や14はゴジラの脚(Leg)、10と13はゴジラの尾(Tail)、と見立てています。

IODP掘削提案の紹介

これまで行われてきたゴジラメガムリオンの調査研究成果を踏まえ、背弧海盆の海洋下部地殻・上部マントルの構造と組成の理解のため、2018年にゴジラメガムリオンの科学掘削提案書(941-Pre: Godzilla Megamullion Lithospheric Architecture) が国際深海科学掘削計画 (International Ocean Discovery Program: IODP)に提出されました。その後の科学評価委員会(Science Evaluation Panel: SEP)による審査と改訂を経て、2023年1月に開催されたSEPによる会議において、この科学掘削提案の学術的価値が高く評価され、JOIDES Resolution Facility Board (JRFB)へ提出されることになりました (941-Full2, Add, Add2)。

●JRFBに提出されたIODP掘削提案Godzilla Megamullion Lithospheric Architecture(941-Full2の表紙)

この掘削提案では、図Bに示すバックボーン海膨(図B:GM-02A)において720 mまで、北テール海膨(図B:GM-05A)において250 mまでそれぞれ掘削して、ゴジラメガムリオンを構成する岩石試料の回収を目指しています。

この掘削提案が実現すれば、フィリピン海プレートの形成過程の理解が進むことや、これまで議論されてきた海洋プレート構造モデルについて新たな知見を与えることが期待されます。さらに、活動が終了した背弧海盆下の地下生命圏の状態についてほとんど明らかにされていません。そのため極めて厳しい環境下での生命圏の活動の解明も期待されます。

図B. ゴジラメガムリオンの掘削予定点周辺の拡大図。桃色の星印が掘削予定点GM-02AとGM-05Aを示す。

ご参考

◆名古屋大学プレスリリース
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/02/post-460.html

◆産業技術総合研究所 お知らせ
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/au20230228_2.html

◆海上保安庁プレスリリース

ゴジラメガムリオン地形区:
https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/r4/k220106/k220106.pdf

ゴジラメガムリオン地形区内の各部の名称:https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/r4/k230214_1/k230214_1.pdf

◆AGUが発行するサイエンスニュースマガジン「EOS」:
https://eos.org/articles/godzilla-gets-a-forever-home-on-the-ocean-floor

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