航海概要
テーマ
Japan Trench Paleoseismology
- Proposal: #835-Full, #866-Full
- Scientific Prospectus
- Flyer (English version)
- Flyer (Japanese version)
- Preliminary Report
ECORDのページ>>こちら
航海予定期間
Exp. 386: 2020年4月~8月の期間内50日(予定)==> 2021年4月13日〜6月1日
Chikyu Onshore Science Party: 2020年秋口(予定)==> 2022年2月14日~3月15日
Personal Sampling Party:2022年11月11日~12月6日==>~11月30日
掘削船
Onshore Science Party
乗船/下船地
Offshore phase 乗下船地: 神奈川県 横須賀港(JAMSTEC横須賀本部)
Onshore phase 開催場所:「ちきゅう」船上(静岡県 清水港着岸中)
掘削地点
日本海溝
科学目的
Expedition 386 aims to test and develop “submarine paleoseismology” in the Japan Trench, a promising approach that overcomes the limitations of short historical and instrumental records in revealing earthquake maximum magnitude and recurrence. Examining prehistoric events preserved in the geological record is essential to reconstruct the long-term history of earthquakes and to deliver observational data that help to reduce epistemic uncertainties in seismic hazard assessment for long return periods.
Expedition 386 will adopt a multi-coring approach using a mission-specific platform equipped with a giant piston corer to sample the shallow-subsurface at up to 40 mbsf to recover the continuous Upper Pleistocene to Holocene stratigraphic successions of trench-fill basins along an axis-parallel transect of the 7-8km deep Japan Trench. The cores from 18 proposed primary (and/or 13 alternate) sites will be used for multi-method applications to characterize event deposits, for which the detailed stratigraphic expressions and spatio-temporal distribution will be analysed for proxy evidence of earthquakes.
Expedition 386 can potentially lead to a fascinating record unravelling an earthquake history that is 10 to 100 times longer than currently available. This would contribute to a tremendous advance in the understanding of the recurrence pattern of giant earthquakes and earthquake-induced geohazards globally.
The project has three major objectives:
- To identify the sedimentological, physical, chemical, and biogeochemical proxies of event- deposits in the sedimentary archive that allow for confident recognition and dating of past Mw9-class earthquakes vs. smaller earthquakes vs. other driving mechanisms.
- To explore the spatial and temporal distribution of such event-deposits to investigate along- strike and time-dependant variability of sediment sources, transport and deposition processes, and stratigraphic preservation.
- To develop a long-term earthquake record for giant earthquakes.
詳細についてはECORDのページをご参照ください。
共同首席研究者
Prof. Michael Strasser (University of Innsbruck, Austria)
Dr. Ken Ikehara (Geological Survey of Japan, AIST).
J-DESCからの乗船研究者
※「かいめい」への乗船研究者
氏名 | 所属 |
池原 研 | 産業技術総合研究所 |
Kanhsi Hsiung | 海洋研究開発機構 |
實野 佳奈 | 早稲田大学 |
金松 敏也 | 海洋研究開発機構 |
事前科学説明会「Webinar」 が開催されました。
日時:2019年6月20日(木)12:00 GMT(日本時間同日21:00 JST)
終了しましたが,ECORDのサイトから (Reports & Publications) webinar情報を見ることができます.
募集情報
(2021/11/09更新)※応募は締め切りました。
オフショアフェーズ(航海)は終了しましたが、地球深部探査船「ちきゅう」船上でのOnshore Science Partyに参加する研究者を分野限定で追加募集中です。
応募フォームのタブよりご応募ください。
2021年4~6月に、日本海溝において海域広域研究船「
実施予定期間:2022年2月14日〜3月15日
場所:地球深部探査船「ちきゅう」船上(静岡県 清水港着岸中)
※予定はCOVID-
募集分野
Onshore Science Party 追加募集:Tephra Specialist
応募方法
応募フォームのタブより必要情報をご入力ください。
募集〆切
Onshore Science Party 追加募集:2021年11月19日(金)
※応募者があった時点で募集を締め切る可能性があります。
応募をご検討中の方は、J-DESCサポートオフィスまでご一報ください。
注意事項
応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。
修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
乗船に関わるサポート情報
乗船研究者としてIOから招聘される方には乗船前から乗船後に至る過程の数年間に様々なサポートを行っています。主な項目は以下の通りです。
- プレクルーズトレーニング:乗船前の戦略会議やスキルアップトレーニング
- 乗船旅費:乗下船に関わる旅費支援
- アフタークルーズワーク:モラトリアム期間中の分析
- 乗船後研究:下船後最長3年で行う研究の研究費
(2021/06/21 更新)
ECORDがニュースレター34号を発行しました。「かいめい」によるIODP第386次研究航海 Japan Trench Paleoseismologyが掲載されています。
◆ECORD website:
https://www.ecord.org/?ddownload=15207
(2021/06/03 更新)
JAMSTECのホームページに、航海終了の速報レポートが掲載されました。
*速報レポートはこちら
(2021/04/12 更新)
JAMSTECより航海開始のプレスリリースがされました。
*JAMSTECプレスリリースはこちら
(2021/03/11 更新)
日本海溝の深海堆積物試料から地震履歴を解明するIODP Expedition 386が、
JAMSTECの研究船「かいめい」を用いたMSP航海として2021年4月に開始されます。
東北地方太平洋沖地震から10年目にあたる2021年3月11日に、ECORDからプレスリリースされましたのでお知らせします。
ECORDからのデイリーレポートをご覧になりたい方は、下記リンク先よりご登録をお願いします。==> ここから
お問い合わせ
最終更新日:2022年3月14日
※日付は日本時間
海底広域研究船「かいめい」での航海レポート
(2021.04.13~06.01)
レポート1(2021年4月19日受領)>> 日本海溝の海底堆積物からの未知なる発見を目指して
レポート2(2021年4月27日受領)>> 船内でのサンプル処理について
レポート3(2021年5月08日受領)>> 母校ライブ中継 on Kaimei
レポート4(2021年5月21日掲載)>> ”Breaking records: Deepest of the Deep”
レポート5(2021年5月24日受領)>> 1日のスケジュール
レポート6(2021年5月28日受領)>> 黒潮との闘い
レポート7(2021年5月31日受領)>> 最後まで頑張ったGPCオペレーション
地球深部探査船「ちきゅう」でのOnshore Science Partyレポート
(2022.02.14~03.15)
レポート1(2022年3月1日受領)>>船上レポート01: 静岡市清水港に停泊する「ちきゅう」から観望する自然の豊かさ
レポート2(2022年3月1日受領)>>Shipboard report, Mar 1, 2022
レポート3(2022年3月7日受領)>>Shipboard report, Mar 7, 2022
レポート4(2022年3月7日受領)>>異分野の研究者・学生との交流〜ムンク博士のライブラリー・リサーチルームにて〜
レポート5(2022年3月8日受領)>>船上レポート02: 日本海溝の超深海に封印された地球の年代を磁鉄鉱から読み解く
レポート6(2022年3月8日受領)>>船上レポート03: 日本海溝海底に眠る美しい微化石から地球の歴史を解読する
レポート7(2022年3月8日受領)>>船上レポート04: 「ちきゅう」の魅力を子どもたちに伝えたい ~「ちきゅう」とSTEM education ~
レポート8(2022年3月14日受領)>>船上レポート05: 地球史における大地の静と動を海底堆積物の多様性から解読する ― タービダイトとヘミペラジャイトは大地の映像フィルム ー
レポート9(2022年3月14日受領)>>船上レポート06: タービダイトが教えてくれたもの
レポート1:日本海溝の海底堆積物からの未知なる発見を目指して
2021年4月19日(月)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
こんにちは。早稲田大学博士1年の實野佳奈です。2021年4月13日から6月1日の50日間、海底広域調査船「かいめい」に乗船して、IODP Exp. 386 Japan Trench Paleoseismologyというプロジェクトに参加しています。今回の調査の目的は、海面表層から約7,000mの深さをもつ日本海溝の海底堆積物から、過去の地震で生じた地滑り層の特徴を詳細に調べることです。残念ながら、COIVD-19の感染拡大の影響により海外からの研究者の参加は見送りになりましたが、気を引き締めて、楽しくサンプリングをしたいです。私は微生物学者(Microbiologist)としてこのIODP Exp. 386に参加しており、地滑り層から検出される微生物の遺伝子情報から、種の多様性や生体機能を調査する予定です。また、今年の11月に予定していますOnshore Science Party では、他の分野の研究者のデータと照らし合わせて、エキサイティングな新しい発見があることを期待しています!

写真1. コアカットの練習

写真2. 作業スペースの様子

写真3. 昼食に出たラーメン
レポート2:船内でのサンプル処理について
2021年4月27日(火)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
出港してから1週間が経ちました。20mと40mのGiant Piston Core(GPC)にも成功し、サンプル処理も問題なく進んでいます。採取するサンプルは主に3種類あります。Trigger Coreからの海底海水(Bottom water)、GPCからの堆積物と間隔水(IW)です。簡単にサンプル処理について説明します。
海水は採水してから直ぐに濾過をして微生物を回収します。濾過した後は蛍光顕微鏡を用いて細胞カウントをします。
堆積物はシリンジを用いて採取し、保存用の試薬を添加する作業を行います。
間隔水はRhizonというプラスチック装置を使って回収します。この後は、堆積物と同様に保存用の試薬を添加して冷蔵庫に保管します。
周りの研究者やマリンワークの方達と協力しながら作業を進めています。
昼食に時々出てくるお楽しみ…アイス!この前は柚子シャーベットを皆で美味しく頂きました〜
レポート3:母校ライブ中継 on Kaimei
2021年5月8日(土)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
今日は私の出身中学の國學院大學久我山中学高等学校の学生さんとのライブ中継がありました。実は久我山中学高等学校には、中学1年の1年間だけしか通学していなかったのですが、快くイベントの参加を引き受けてくださいました高校理科担当の関根先生にはとても感謝しています。(中学2年からはアメリカに家族と引っ越してアメリカの中学と高校に通っていました)このような機会に自分の母校と久しぶりに繋がることができてとても嬉しかったです。

写真1. 第3研での1mコアの説明
ライブ中継は午後13時から開始されました。まずは船のブリッヂから中継につなげて、船「Kaimei」の簡単な船内紹介をしました。ジャイアントピストンコアで掘削する様子を説明したり、食堂の風景を動画で見せて献立を紹介したりしました。また、今回の掘削調査の目的、IODP Exp. 386の概要について池原先生からご説明して頂きました。
ブリッジで簡単な説明が終わった後に、第3研究室に移動して(駆け下りて)、実験室の説明をしました。まずは1mカットした後のコアを見せながら堆積物のサンプリングについて説明しました。「堆積物からどの様にして地震の記録がわかるのか?」という良い質問(答えにくい質問)に対して、池原先生がわかりやすく説明してくださいました。その後は、コールドルームでサンプルが保存されていることや、ドラフトベンチで薬品添加していることを説明しました。最後に、自分の行なっている研究について詳しく説明しました。自分はトリガーコアから深度7,000mの海水を採水し、超深海に生息している微生物を調査しています。この海水はコアから採取される間隔水(IW)とは別で、堆積物の上に存在している海水になります。海水をろ過する装置や、細胞カウントする蛍光顕微鏡も見てもらいました。

写真2. 第3研究室の様子

写真3. 細胞カウントに使用している蛍光顕微鏡
第3研究室の説明が終わったら、ブリッヂに戻り(駆け上がり)生徒さんからの質疑応答をしました。生徒さんからは続々と質問をいただきました!「新種の微生物は見つけたことはありますか?」や、「海底の微生物は表層の微生物とは異なるのですか?」など、自分の研究内容に興味を持ってもらえてとても嬉しかったです!
今日のライブ中継に参加してくれた久我山中学高等学校の生徒さん。少しでも海洋調査や掘削のことについてイメージを掴んでもらえたら幸いです。ライブ中継の時に伝えることができなかったのですが、このことは伝えたいです。是非、現場に出て実際に色々経験して見てください。今はインターネットで簡単に情報を得られる時代になっていますが、他の人から得た情報ではなく、自分で体感して確かめてみることが重要です。色んな体験をすることで、一見すると関係なさそうなことも、意外なところで関係していることに気がつけると思います。
今日はありがとうございました!
レポート4:Breaking records: Deepest of the Deep
ECORDによるExpedition 386ブログページ https://expedition386.wordpress.com/ に
共同首席研究員のMichael Strasserが投稿した「Breaking records: Deepest of the Deep」
という記事が掲載されました。
https://expedition386.wordpress.com/2021/05/18/deepest-of-the-deep/
上記の記事をBBCが紹介しました
https://www.bbc.com/news/science-environment-57172348
この記事の概要文を下記に掲載します。
2021年5月14日12時6分、南部日本海溝の水深8023mに突き刺さった40m大口径長尺ピストンコアラー(Giant Piston Corer: GPC)は無事に回収され、37.74mの堆積物の採取に成功しました。これはこれまでの深海科学掘削での最も深い水深からの試料採取であるとともに、海面から最大の深さの試料採取となりました。これまで50年以上にわたる深海科学掘削での最も深い水深からの試料はマリアナ海溝の陸側斜面のDSDP Leg 60 Site 461での水深7034mから採取された15.5mと20.5mの試料になります。今回はこれを900m弱上回ったことになります。この掘削は1978年5月10〜11日に行われていますので、43年と4日ぶりの記録更新ということになります。また、8023mの水深から得られたコアの先端は海面下8060.74mに達します。これまでの海面から最大深度の試料は、「ちきゅう」によるExpedition 343 J-FAST Site C0019Eでの水深6889.5mの海底から844.5mを掘削して到達した海面下7734mでしたので、これも上回ったことになります。
今回の Expedition 386では水深7kmを超える超深海の日本海溝において「かいめい」の大口径長尺ピストンコアラーでのコア試料の採取が続けられています。本日(5/20)までに11地点で22回のコアリングが行われ、いずれにおいても十分な長さのコアが得られています。Expeditionの初めから4月とは思えないような次々の低気圧の襲来や異常とも言える黒潮流軸の北上など、コアリングのオペレーションには過酷な条件ですが、無事にコアリング作業が行えているのは、船長をはじめとした船員さんや観測技術員の皆さんのプロフェッショナルな技術と経験に支えられてのものです。深く感謝します。

水深8023mに向かう40m GPC(写真:L Maeda@ECORD/IODP/JAMSTEC)

「離底確認しました!」(写真:L Maeda@ECORD/IODP/JAMSTEC)
レポート5:1日のスケジュール
2021年5月24日(月)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
Exp. 386では、船員さんや観測技術員、研究者がシフトをずらして24時間体制で運行に携わっています。そこで、コアリングの1日の様子を簡単にご紹介します。
7時:朝食
8時:GPCの投入
12時頃:GPC着底の確認
観測ウィンチ(ピストンコアラウィンチ)のロープ張力を連続的に表示しています。GPCが海底に着底すると張力が緩み、そして着底して直ぐにGPCを引き揚げるため、張力が再び一定の値に回復する様子を確認します。
問題なく着底するかどうかを船員さんや研究者は毎回ブリッジで確認しています。ドキドキの瞬間です。
14時頃:GPCの引き上げ作業開始
海底8,000mに着底したGPCが引き揚げられ、揚収作業が開始されます。とても危険度が高い作業になるため、揚収作業担当者以外の人達は作業デッキへの立ち入りは禁止されています。
本航海ではGPCの上部(太い円柱)には2トンの錘が付いており、総重量は40m GPCで約6トンにもなります。錘の部分をフォークアームと呼ばれる重機で掴み、またダビットと呼ばれる巻揚装置でGPCバレルを垂直一水平に向きをかえます。
15時頃:コアのカット作業とサンプリングの開始
揚収作業が終わるとすぐにコアのカット作業に入ります。まずは全長20mまたは40mGPCを5m毎にカットした後にさらに1m毎にカットします。カット作業のすぐ隣では堆積物のサンプリングが行われています。
17時:夕食
18時頃:間隔水のサンプリング
(詳細はレポート第1弾を参考にしてください)
22時頃:MSCLによるコア試料の物性測定
MSCL(Multi-Sensor Core Logger)によるコア試料の物性(γ線密度・P波速度・比抵抗・帯磁率・自然放射線)を測定します。測定をする時点でコア試料が常温になっている必要があるため、揚収されてから約6時間後に測定します。この測定は夜に開始してから翌日のお昼過ぎまでかかる場合もあるため、2名の観測技術員が交代で24時間体制で作業しています。
また、研究者がリクエストしたコア試料を長期保管するために、船内実験室とは別のコンテナ実験室で保存試薬の添加も行っています。
乗組員全員がチームとなって作業を進めています。既に40日間が経過していますが、時折休みをとりながら、残りの日も安全に調査を進めていきたいと思います。
レポート6:黒潮との闘い
2021年5月28日(金)
池原 研(産業技術総合研究所 共同首席研究員)
黒潮は親潮とともに日本人には馴染みのある海流だと思います。30 年以上も前の私の最初の英語の論文も黒潮に関係した堆積作用の話だったこともあり、私自身も黒潮が嫌いなわけではありません。しかし、その黒潮に東北沖の太平洋上 で悩まされることになるとは夢にも思っていませんでした。地図帳などに載っている黒潮の流路は銚子〜鹿島沖で日本列島から離れ、東に向かいます。これまでにもこの Expedition のための掘削提案を通すために日本海溝域で何回もの調査航海を行ってきましたが、黒潮の流軸に当たったことは ありませんでした。黒潮の流軸での表面流速は 2 ノット(1 ノットは時速 1 海里 (マイル)、1 海里は 1852m なので、2 ノットはおよそ秒速 1m)を超えるので、あの巨大な掘削船の「ちきゅう」でも難敵の一つになっています。もちろん「かいめい」のような調査船では表層の強い流れで船は流されるので採泥作業では 強風や大波とともに、あって欲しくないものになります。 横須賀出港後、強風のために横須賀沖での錨泊を余儀なくされていた私たちを 茨城沖で待ち構えていたのが、黒潮でした。黒潮の流軸は日本海溝の陸側斜面に 沿って宮城沖まで北上し、そこから折り返して南に流れた後、通常の東向きに向 かっていたのでした。これ以降、頻繁にやってくる低気圧と黒潮が私たちを混乱させることになります。まずは黒潮を避けて、宮城沖、さらに風の影響もあり、⻘森沖に調査地点を変更して行かざるを得なくなりました。八戶出港後の後半になれば黒潮も南下(軟化?)するのではないか?????そう期待しつつ。八戶出港後、海域の中部から北部のプライオリティの高いサイトでのコアリングをやり終えた私たちは、海域北端の海盆から南端の海盆に移動することにしました。もちろん、黒潮の動向を押さえることをしつつ。そして、待ち受けてい たのは宮城沖北緯 38 度付近での 4 ノットを超える黒潮でした(5 月 13 日)。それでもなんとか南端の採泥点でのコアリングはできましたが、「黒潮との闘い」 はまだまだ続きます。そう、北緯 38 度の難関です。当初計画では北緯37 度30 分から38 度30 分の間には6つの採泥点が置かれておりましたが、サンプルリクエストも多く、プライオリティの高いサイトや東北沖地震の震源に近く、地震後に数回にわたってコアリングが行われていて経年変化の把握が期待できるサイトもあります。38 度付近を何度も行き来して黒潮の状況を見つつの日々が続きます。18 日の夜は 4.1 ノット、22 日の夜は 4.6 ノット、23 日の夜は 5 ノット。なぜ強くなっていくのでしょう?予報では、流軸は調査海域より東へ動くはずなのに。さて、いつになったら黒潮は軟化してくれるのか??「黒潮との闘い」は最後まで続くようです。

穏やかな朝の海。でも、黒潮は2ノット以上。

黒潮(手前のコバルトブルーの表層水)と親潮(奥のエメラルドグリーンの表層水)の潮目。黒潮水域は3ノット以上、親潮水域は2ノット以下の表面流速。
レポート7:最後まで頑張ったGPCオペレーション
2021年5月30日(日)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
本日は最後のGPCオペレーション実施日です。黒潮の影響を受けながらも、50日間で29回コアリングに成功しました。

写真1. 最終日GPC揚収作業

写真2. 最終日コア処理の様子
自分で採取した堆積物サンプルも1,009個になりました!思った以上の数なので、驚いています。帰ってからの実験が大変ですね(笑)。今回の航海では、GPCコアリングが最大水深記録を更新したので、エキサイティングなデータが得られていると思います。

写真3. 冷蔵サンプルの様子

写真4. コア資料を保管庫に運び入れる様子

写真5. 保管庫のコア試料の様子
最終日はScience Party全員とESOとの遠隔ミーティングがありました。IODP Exp. 386航海の感想を1人ずつ述べた後に、共同首席研究者のMichael Strasser教授から「オツカレサマデシタ!」というお言葉を頂きました。今回はCOVID-19感染拡大の影響により、日本に渡航できなかった研究者が海外に多くいますが、彼らとは地球深部探査船「ちきゅう」で実施が予定されているOnshore Science Partyで会えることを期待しています。

写真6. 乗船研究者とESOの遠隔ミーティングの様子
今回の航海では、新しい出会いや多くの人の支えがありました。また、船酔いで悩まされた日もあれば、人生で初めての体験をして興奮したりする日々でした。

写真7. 2021年5月26日に船上から観察された月食の様子
右も左も分からない中、経験豊富な乗組員や観測技術員の方達に支えられました。そして海洋研究の現場を経験することができて、これからの研究に対するモチベーションにもつながりました。本当にありがとうございます。

写真8. 乗組員の集合写真

写真9. 船からの青い海の様子
地球深部探査船「ちきゅう」でのOnshore Science Partyレポート(2022.02.14~03.15)
船上レポート1:静岡市清水港に停泊する「ちきゅう」から観望する自然の豊かさ
竹林知大 (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)
IODP Exp. 386 OSP Japan Trench Paleoseismology(日本海溝地震履歴研究)のプロジェクトは、東北沖日本海溝の海底で採取された泥・砂などの堆積物から、過去の巨大地震によって形成された地層の特徴について研究します。今回の活動は、2022年2月14日から3月15日にかけて、静岡県静岡市清水港に停泊中の「ちきゅう (Chikyu)」の研究棟にて行われています。この船は、全長210 m、横幅38 m、高さ130 m、重量56,752 tもあり、世界最大の科学掘削船です。清水港に船が停泊している時は、静岡市清水区の清水マリンパークや、清水港と土肥港を結ぶ駿河湾フェリーから外観を見る事ができます。また12月以降には、雪化粧をした富士山を背景としたちきゅうを眺める事が出来ます。

写真1:富士山と駿河湾と「ちきゅう」(撮影:竹林知大)
「ちきゅう」の外観のうち特徴的な部分の一つとして、船首部上部にはヘリデッキを備えています。ヘリデッキは360度視界が開けており、船が清水港に停泊中時には、静岡の雄大な自然を観望することができます。船首と船尾のそれぞれを12時と6時として説明すると、たとえば8時方向に世界文化遺産の富士山、10時方向にUNESCO世界ジオパークの伊豆半島、12時方向に世界文化遺産の三保の松原、そして船首前方広範囲には、日本で最も深い湾として有名な駿河湾を観望することができます。私たちが乗船中の2月には、冬の澄んだ空気と日没直前に富士山が真っ赤に染まる現象「紅富士(あかふじ)」を観望することができました。「ちきゅう」が停泊されている地域は、海底から陸域にかけて地質の多様性に富んだ環境であり、その地域には多様な環境に合わせて複雑な生態系が形成されています。清水港に停泊している「ちきゅう」から見える景色は、まさに海から陸にかけての地球システムを表しているのです。豊かな自然環境に囲まれながら、壮大な地球システムの一端を解読に向けて、私たちは挑戦を続けています。

写真2:桟橋にて船首側から見た「ちきゅう」。船首上部の台がヘリポート(撮影:竹林知大)

写真3:ちきゅう号ヘリデッキから眺望した世界文化遺産富士山の紅富士(撮影:竹林知大)
レポート2:Shipboard report, Mar 1, 2022
2022年3月1日(火)
實野 佳奈(早稲田大学 大学院生)
昨年度に参加した「かいめい」によるIODP第386研究航海(2021年4月13日〜6月1日) に引き続き、今年度はOnshore Science Party (OSP, 2022年2月14日〜3月15日) に3月3日まで参加しております。
I continuously participate in Chikyu Offshore Science Party (OSP) till Mar 3, 2022, since the offshore phase, IODP Expedition 386 Kaimei cruise (Apr 13 to Jun 1, 2021).

写真1. 掘削船Chikyuのヘリデッキから眺める富士山
Photo 1. View of Mt. Fuji from Heli-Deck on D/V Chikyu
OSPでは地球深部探査船「ちきゅう」に乗船し、「かいめい」で採取したコア試料のサンプリングや測定を行なっています。
I stay onboard D/V Chikyu for sampling and analyzing on cores collected during IODP Expedition 386 by R/V Kaimei.

写真2. 微生物サンプリングの様子
Photo 2. Sampling for microbiology studies
自分は微生物学を専門としており、今回のExp 386の航海では地滑りに対応した微生物組成の変化や応答などを探索しています。
超深海の海底下ではユニークな代謝機構や未知な機能遺伝子を持つ微生物が多く存在しています。例えば、海水の表層では、光合成で作られた有機物をエサとする微生物が多く存在していますが、海底下の無酸素環境では、岩石と水の反応で放出された水素やミネラルを利用する微生物などが存在しています。
自分は、地球上に酸素が増加する以前の環境が海底下で保存されていると考えており、特に海底下に存在している原始的な微生物の代謝機構などに興味を持っています。
I have taken place this project as microbiology specialist, to study how microorganism community changes or corresponds to landslides. There are many microorganisms which has unique metabolic mechanism and/or unknown gene functions below seafloor in ultra-deep sea. For instance, many microorganisms living in the surface water feed organic materials formed by photosynthesis, while microorganisms living below the seafloor (anoxic environment) take in hydrogen and minerals which are composed by reactions between rock and water. I believe past environment on the Earth, there was no oxygen circumstance, is preserved below the seafloor, and am interested in metabolic mechanisms of primitive microorganism existing below seafloor.
船上では週3回程度セミナーが開催され、自分とは異なる分野の専門家の先生の話が聞けるので、非常に勉強になっています。
Various seminars are held 2-3 times a week by various specialty scientists, it is very helpful for me.

写真3. 金松さんによる古地磁気に関するセミナー
Photo 3. Seminar of paleomagnetic study by Dr. Toshiya Kanamatsu

写真4. 里口さんによる火山灰に関するセミナー
Photo 4. Seminar of tephra studies by Dr. Yasufumi Satoguchi
今回のOSPでは新たな出会いも多く、非常に楽しく充実した時間を過ごせました。
残りわずかではありますが、最後までサンプリングを頑張りたいと思います!!
I have had new encounter and a satisfying time during OSP.
Only two days left, I will do my best for sampling until the moment of disembarkation!
レポート3:Shipboard report, Mar 7, 2022
2022年3月7日(月)
武田沙蘭(李さらん)(九州大学 修士1年)
2022年の春、約1ヶ月間実施されたIODP Expedition 386の船上作業に臨時研究補助員として参加させて頂きました。私は現在、修士課程の課題として国際深海科学掘削計画(IODP)の海底堆積物を用いて更新世の古気候に関する研究を行なっています。U-Channelという棒状のコア試料を使用して研究を行っていますが、どのようなプロセスで研究室に運ばれてくるのか興味がありました。実際、今回のプロジェクトに参加し、実際にサンプリングを体験してみて、自分が使っているサンプルがいかに貴重なものであるかを実感しました。本プロジェクトでは、少し大きめのコア(Giant Piston Core: GPC)を掘削しており、個人的には腕の筋肉を鍛えるのに最適だと思いました。

写真1)修士1年の仲間たち
乗船して2〜3日は、慣れない環境で作業を覚えることが多く、そのプレッシャで4時間以上寝られないといった状況が続いていました。最初は大変でしたが、集まった大学院生5名と助け合いながら、なんとか乗り越える事ができました。また研究者の方々が学生のためのセミナーを開催してくださり、貴重なお話を伺う事もできました。船内という閉鎖的な環境では、人とのコミュニケーションは特に大事だということを学びました。

写真2)測定が上手くいかず、悩んでいた時です。
今回の経験で、同世代と協力し、議論することの楽しさを味わえました。ラボに閉じこもって一人で実験する事が当たり前だった私にこのような機会を与えてくださった、J-DESC及びJAMSTECの皆様に感謝申し上げます。自分の進路について前向きに考え直す良い時間になりました。残りの1週間も頑張ります!
レポート4:異分野の研究者・学生との交流〜ムンク博士のライブラリー・リサーチルームにて〜
2022年3月7日(月)
二村 康平(名古屋大学大学院)
構造岩石学が専門の私が,堆積物を調査するプロジェクトに臨時研究補助員として参加しました。なぜ?と思われる方が多いかもしれないですね。私はメガムリオンという海底地形を研究している関係から,今までに2度研究航海を経験したことがあります。しかし,これまで掘削船に乗る機会が1度もありませんでした。そんな中,指導教官の道林先生から「「ちきゅう」に乗ることができるよ」と案内されました。海洋底物質のレオロジーを専門とする研究者を目指している私は,掘削船「ちきゅう」で現場経験を積んでみたいという思いがあり,本プロジェクトへの参加を決めました。
自分の専門ではない堆積学のプロジェクトでやっていけるか不安でしたが,同じく臨時研究補助員に選ばれた5人についてフタを開けてみれば,自分と同様に堆積学が専門でない方々でした。九州大学から来た粕谷くん(M1)と武田さん(M1)は古環境学,筑波大学から来た遠藤くん(M1)は古生物学,そして名古屋大学から来た竹林さん(D1,同じ研究室)と私は構造岩石学が専門です。また,研究者グループについても,堆積学の専門家だけでなく,古地磁気学や微生物学の専門家がおり,総じて様々な分野の方々が乗船されている印象を持ちました。
乗船日から2週間以上が経過して,研究者・学生とも打ち解けて,船内はとても良い空気感となって来ています。サンプリング作業も順調に進んでいるおかげで,乗船研究者の研究紹介の場が設けられることとなりました。どの発表も自分とは全く異なる研究分野の話でしたが,丁寧でわかりやすい説明のおかげで,とても興味深く聞くことが出来て非常に勉強になっています。学生同士でも,作業の合間にライブラリーやリサーチルームでお互いに自身の研究を紹介し合っています。自分も現在進行している研究について他の学生に紹介しましたが,乗船研究者の研究紹介には程遠く,なかなか相手にうまく伝わらず精進せねばと思いました。

写真1:作業風景

写真2:ライブラリーの様子

写真3:学生同士の研究紹介(竹林さんと實野さん)

写真4:リサーチルームにて学生の研究発表
最後に小話。自分の机で作業をしていてふと顔を上げると,右手に少しくすんだシルバープレートが目に入ります。そのシルバープレートには,「Prof. Walter H. Munk Library & Research Room」の文字と顔写真が載っていました。そう,研究者・学生が執筆作業や議論をする場は,偉大な海洋学者ムンク博士のMemorial libraryでした。指導教官から,「最期まで現役で研究し続けた偉大な研究者」として伝え聞いていた私にとって,その方の名前がつけられた場所で,様々な研究者・学生と交流していることが何だか感慨深くなりました。

写真4:ムンク博士のシルバープレート
乗船期間は残り10日ほどになりました。「ちきゅう」での貴重な時間を最後まで全力で過ごしたいと思います!
船上レポート02: 日本海溝の超深海に封印された地球の年代を磁鉄鉱から読み解く
2022年3月8日(火)
取材:竹林知大 (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)
解説:金松敏也 博士 (JAMSTEC 海域地震火山部門専門部長 / IMG)
「ちきゅう」の研究棟船内の一角には,ほかの部屋とは異なる,重そうな扉と隔離された特別な部屋があります。この部屋の扉の上部には,「Paleomagnetics Lab.」,つまり「古地磁気解析研究室(古い地球の磁気を調べる研究室)」と書かれています。一体どんな研究をしているのでしょうか。今回の記事は,古地磁気解析のスペシャリストである,国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)海域地震火山部門専門部長の金松敏也博士にインタビューをさせて頂き,古地磁気研究について紹介します。

写真1:「ちきゅう」の船内で特別な部屋で作られた部屋。Paleomagnetics Lab.の入り口(撮影:竹林知大)。

写真2: Paleomagnetics Lab.の表札(撮影:竹林知大)。
「Paleomagnetics Lab.」は,堆積物中の微弱な磁場を測定する部屋です。そのため,測定の妨害となる地球の磁場を遮るために,特殊な合金金属で覆われた窓のない隔離部屋となっています。通称,「シールドルーム」とよばれ,科学目的の船舶では「ちきゅう」のみに設置されています。
この部屋には,レールとトンネルを組み合わせたような大きな機械が一台設置されています。この機械は「パススルー型超伝導磁力計」と呼ばれます。トンネル内部には磁場測定用のコイルが3次元的(X軸・Y軸・Z軸)に設置され,トンネル内を通過する試料の磁場を立体的に計測することができます。そして,本器の最大の特徴は,長い試料を置くことのできる長いレール及びトンネルであり,レール上には最長約150 cmの試料を載せ,試料をトンネルに通過させることで一気に分析することができます。今回のプロジェクト(EXP386日本海溝古地震解析IODP第386次研究航海)では,日本海溝の堆積年代決定を主な目的として古地磁気の分析をしています。

写真3: パススルー型超伝導磁力計(撮影:竹林知大)。
私たちの暮らす今の地球では,方位磁石を手にもって針の方向を見てみると,N極は北、S極は南を指しています。N極が北を指してるので,N極に向かって進めば地球の真北にたどり着くかと思いますが,実際には方位磁針のさす方向から少しずれた方向に真の北があります。このずれの角度を「偏角」とよび,例えば日本は北に行くほど大きくなります。さらに磁力方向には,ある地点の水平面からの傾きである「伏角」と,磁力の向きの水平面からの角度「水平分力」があり,3次元的に分解することができます(地磁気の3要素とも呼びます)。

写真4: シールドルーム内にある方位磁石(撮影:竹林知大)。
これらの3つの要素は地球の歴史スケールで観察すると,地球の磁場が常に一定方向に向いているのではなく,変動していることが解明されています。地球の地磁気は,磁性をもつ磁鉄鉱と呼ばれる鉱物に記録されます。例えば,とある地層の形成の過程において磁鉄鉱がその地層中に入っていたとすると,当時の地磁気の方向を記録しながら地層中に保存されます。したがって,地層の深さごとの地磁気の方位を3次元的に読み取り、その変化を解析することで、過去の年代推定につながるデータを得る事ができます。地磁気の方向の年代による変化は、湖の堆積物の古地磁気測定と堆積物中に挟まる年代のわかっている火山灰層との関係からすでに解明されています。したがって,地球磁場の方向が分かれば,年代を求めることができるのです。

写真5:実験中の金松敏也 博士 (JAMSTEC / IMG),(撮影:竹林知大)。
磁鉄鉱による年代測定の利点は,磁鉄鉱自体が多くの堆積物中に含まれていることが挙げられます。地球科学での年代分析では、鉱物がよく使われます。例えば、有名なU-Pb年代測定法ではジルコンと呼ばれる鉱物を活用します。しかし、ジルコンの入る堆積物や岩石は、産出が限られてくるので、その鉱物が含まれていない試料に対しては年代測定が難しくなります。
一方で、日本海溝の海底堆積物の古地磁気は,未だ謎に包まれた世界です。その大きな理由は,水深7000 mよりも深い海溝が試料の採取を困難にしていることです。しかし,「かいめい」や「ちきゅう」の登場により,私たちは謎に包まれてきた海溝の堆積物を,本格的に採取することができるようになりました。
日本海溝では,2011年3月11日東日本大震災を引き起こした巨大地震が発生し,その海底下には,地震性のタービダイト層(混濁流から堆積した地層)が形成されました。このようなプレート境界型の地震は日本海溝で大小合わせて何度も起こっており,東北沖地震によるタービダイト層のさらに下の地層にも、昔のプレート境界型地震のタービダイト層が残されています。そして、タービダイト層と静かに形成した地層には、磁鉄鉱が含まれています。しかしながら、タービダイト層の地磁気の記録は混濁流によって攪乱されています。そこで、その前後に堆積した地層の地磁気を調べることで、タービダイトの年代を推定することが可能となるのです。日本海溝の磁鉄鉱が残してくれたメッセージを読み解くことによって,私たちは深い海に封印されてきた地球の歴史の一ページを読むことができるのです。

写真6:トンネルの中に運ばれていく日本海溝の試料。このあと金松敏也博士によって解析が進められる(撮影:竹林知大)。

写真7:金松敏也 博士 (JAMSTEC / IMG),(撮影:竹林知大)。
船上レポート03: 日本海溝海底に眠る美しい微化石から地球の歴史を解読する
2022年3月8日(火)
取材:竹林知大 (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)
解説:板木 拓也 博士 (産業技術総合研究所(AIST)地球変動史研究グループ長)
地球の歴史を解読する場合,多くの方々は化石を調べることを思い浮かべるのではないでしょうか。今回のIODP第386次研究航海 (以下EXP386と記します)では,化石に着目した研究も行われています。しかし,この化石の研究では,皆さんが思い描くような大きな化石ではなく,顕微鏡でしかその姿を観る事のできない化石を調査します。この小さな化石のことを,総称として「微化石」とよび,一般的にミリサイズ以下の化石を指します。EXP386のプロジェクトでは,「放散虫」と呼ばれる微化石を調べることで,日本海溝の堆積物の年代の解析に挑みます。今回の記事では,海底下における目には見えない小さな化石たちを調べる,産業技術総合研究所(AIST)地質調査総合センターの地球変動史研究グループ研究グループ長の板木拓也博士にインタビューをさせて頂きました。

写真1:放散虫微化石研究のスペシャリスト,板木博士(撮影:竹林知大)。
「ちきゅう」には様々な顕微鏡が設置されています。試料採取と同時に,すぐにスライドガラスに試料を張り付けて,小さな物質を観察することができます。顕微鏡には,実体顕微鏡と透過型の顕微鏡があり,目的に応じて研究者が使い分けています。微化石の研究では顕微鏡観察が不可欠です。

写真2:「ちきゅう」に設置されている様々な顕微鏡(撮影:竹林知大)。
微化石には様々な種類があり,その多くがプランクトンの殻からできています。この多様な微化石のグループの中で最も有名なのが,海底で大量に見つかる「有孔虫」や「放散虫」の微化石です。「有孔虫」は,炭酸カルシウム(CaCO3)の殻をもつ単細胞の原生生物で,今も世界中の海に生息している生き物のひとつです。有孔虫の殻は炭酸カルシウムでできているため,その殻の材料である酸素(O)や炭素(C)同位体比を調べることで地球の年代や太古の環境の変化を推定することができます。しかしながら,有孔虫には、深い水深では溶けてしまい,過去の情報が消失してしまうという最大の弱点があります。この溶ける深度は,太平洋や大西洋などの海洋によって異なりますが,日本海溝の場合は約4000 m前後です。この溶ける深度を「炭酸塩補償深度 / Carbonate Compensation Depth (CCD)」と呼び,研究者界隈では「CCD」と呼んでいます。では,本プロジェクトは海底下7000 mなどの超深海の環境下なので,有孔虫を活用することができません。そこで,今回注目される対象が「放散虫」という微化石になります。

写真3:堆積物中から放散虫を取り出す作業中の板木博士(撮影:竹林知大)
放散虫は固い骨格をもつ生き物の一つですが,彼らはケイ素(Si)を使って二酸化ケイ素(オパール)の殻を形成します。放散虫も有孔虫と同様に今も海の中で漂う動物プランクトンの一つで,世界中の海底から化石となって発見されています。放散虫はオパールの殻からできてており,有孔虫の殻と違って分解されにくいため,CCDよりも深い深海までも溶けずに堆積物中に残ることができます。放散虫の殻は,地球の長い歴史の中で多様な形に進化を遂げてきました。その形と見た目は光に透かすと透明で美しく輝き,地球の作り出したガラス工芸品のようにも感じられます。この美しい形は進化の過程において,絶滅してしまう形もあれば,出現する形もあります。そしてこれらの特異性を活かして,放散虫の形と年代の解析が世界中で行われ,放散虫の形を調べることで地球の年代を読み解くことができるようになりました。
放散虫の写真に関しては,以下のURLを参照してください。

画像引用:産総研の公式WEBサイト「5億年前から生きている「不思議な生物」が教えてくれること」より:https://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/bluebacks/no19/
日本海溝は水深7000m級の超深海の世界で,試料採取が困難であり,多くの謎が海の底に眠っています。またこの海溝では,東日本大震災を引き起こしたような巨大地震がくりかえし発生してきました。地震が発生した際には,海底の土砂の崩落と堆積が発生し,海底の地層に「タービダイト層」と呼ばれる地層を残します。微化石の形状の変化を日本海溝の地層から読み解くことで,私たちは太古の地震の年代を調べることができるのです。
EXP386によって、日本海溝沿いの多数の地点で40 m級のコア試料を得る事ができました。このコア試料から産出した美しい放散虫を活用し,他の様々なデータと比較することでより細かい堆積年代の推定に挑戦をしています。微化石から地球を科学する,つまりミクロな生き物たちからマクロな世界を調査する研究が微化石研究なのです。壮大な美しい微化石の世界にようこそ。

写真4:顕微鏡観察をする板木博士(撮影:竹林知大)
船上レポート04: 「ちきゅう」の魅力を子どもたちに伝えたい ~「ちきゅう」とSTEM education ~
2022年3月8日(火)
竹林知大 (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)
「ちきゅう」には、階段や壁にこれまでの研究航海や実験の写真が飾られています。そしてそれぞれの写真には、EXPと番号が掲げられています。このEXPとは、Expedition(以下、EXPと略します)を表し、「ちきゅう」でのプロジェクト名は、EXPの後に番号が実施された順番に割り振られていきます。私たちが参画するプロジェクトはEXP. 386になります。階段を降りる事で、過去のIODPの研究活動の様子を知ることができます。まるで地層累順の法則ですね。

写真1:これまでの「ちきゅう」で行われてきた掘削や研究写真が階段に掲示されている(撮影:竹林知大)。
過去の活動写真を遡っていくと、所々に子どもたちの「ちきゅう」の塗り絵や、乗船の様子の写真、そして「ちきゅう」の前での集合写真を見かけます。「ちきゅう」では活動の一環として、子どもたちに向けてのアウトリーチ活動が行われており、その様子を垣間見ることができます。

写真2:「ちきゅう」の廊下に掲示されている子どもたちの塗り絵作品と、これまでのアウトリーチ活動(撮影:竹林知大)。
ところで私の研究は、岩石学研究とSTEM教育研究を行っています。現在私は、名古屋大学大学院岩石鉱物学研究室にて、超高圧―高圧の変成岩岩石学の研究を行っており、岩石や鉱物に残された大地の変動の解読に挑んでいます。そして、大型連休や週末に、私の故郷である静岡にて、「ふじのくに地球環境史ミュージアムや静岡科学館る・く・る」で地球科学教室を開いたり、静岡大学STEAMアカデミーと共同でSTEM/STEAM教育の実践を行ったりしています。STEM教育のSTEMとは、Science, Technology, Engineering,そしてMathematicsからとられた言葉で、分野の領域横断的かつ子どもたちに実験や観察から考察させる教育、いわば、子どもたちに研究を体験させる教育を意味しています(アクティブラーニング(AL)や課題解決型学習(PBL)を含む)。STEM教育とは、アメリカ合衆国から始まり、現在では欧米のみならずアジア各国の科学教育界隈にて爆発的に広がりを見せています。また国際的に広がりを見せるSTEM教育は、子どもたちが研究のような過程を体験することによって科学に対する好奇心や論理的な思考を育めることが期待され、学校現場以外の大学や博物館、研究機関が積極的にSTEM教育に参入し始めています。さらに近年のSTEM教育には、リベラルアーツや芸術(AIが創り出せない人間的な感性)などのArt要素を加えたSTEAM教育が考案され、日本では2020年あたりから、文部科学省や経済産業省などの報告書や公式WEBサイトの各所にSTEAM教育の記述が現れ始め、日本の科学教育が大きく変わろうとしています。
日本の海洋工学(Engineering: E)と技術(Technology: T)の発展に伴い、私たちは日本海溝のような水深の深い地層からも数多くの試料を採取できるようになりました。Exp. 386では,「かいめい」によって日本海溝深海の堆積物を多く採取してきました。また、現在私たちが乗船している「ちきゅう」は世界最大の地球科学研究用の掘削船であり、これまでにも数多くの深海の謎解きに国際的な貢献をしてきました。私たちは海底の堆積物を直接手にすることができ、観察や実験で得られたデータを比較や計算することで(Mathematics: M)、過去の地球環境を得られたデータに基づいて推察することができるのです(Science: S)。さらに「ちきゅう」には、様々な分野の科学者が乗船しています。研究のアプローチは異なりますが、研究対象は同じで、私たちの暮らす地球を研究しています。私たちの暮らす地球は様々な自然現象や物質移動が絡み合って複雑なシステムを形成しています(地球システム)。つまり、地球科学の最前線世界は、領域横断的な要素を含み、分野を超えて議論されているのです。

写真3:様々な分野の人たちが集まって議論をしている様子(撮影:竹林知大)。
私は「ちきゅう」の経験を理学研究のみならず、今の世界が取り組んでいる地球科学研究を子どもたちに伝えていきたいと思っています。現在私はサイエンスコミュニケーターの資格や自然観察指導員、また世界博物館会議(ICOM)のメンバーであり、今後も大学や博物館・科学館を通じて、子どもたちを対象とした地球科学イベントを積極的に考案し実施したいと考えています。その為にも、地球科学について教科書だけで暗記させる方法として教えるのではなく、地球科学を研究する人たちが見ている世界を、子どもたちに分かり易い形で見せてあげ、地球環境史を一緒に考え、そして地球を科学する楽しさを共有したいと思っています。やがて、子どもたちの誰かが、また何年か後に「ちきゅう」で地球を調べる科学者になる事を願っています。

本記事の著者
船上レポート05: 地球史における大地の静と動を海底堆積物の多様性から解読する ― タービダイトとヘミペラジャイトは大地の映像フィルム ー
2022年3月14日(月)
執筆・取材:竹林知大 (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)
解説:池原 研(IODP EXP. 386共同首席研究員 / 国立研究開発法人産業技術総合研究所)
Dr. Tomohiro Takebayashi (Nagoya University / Fujinokuni Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka)
Dr. Ken Ikehara (Co-chief Scientist of IODP EXP. 386 / Geological Survey of Japan, AIST)
IODP第386次研究航海 (以下EXP. 386と記します)では、2021年4月13日から6月1日の50日間にわたり、海底広域調査船「かいめい」が搭載する「ジャイアント・ピストンコアラー(Giant Piston Corer: GPC)」によって日本海溝の海底堆積物の柱状試料(コア試料)を採取しました。採取された試料はコアライナーと呼ばれる透明の塩ビ製パイプに入っており、「かいめい」船上で1m間隔に分割されました。そして2022年2月14日〜3月15日にかけて、静岡市清水区に着岸中の地球深部探査船「ちきゅう」船上にて試料を半割、半割した片方をワーキングハーフとして分析用の試料採取し、そしてもう片方をアーカイブハーフとして記載等を行いました。EXP. 386の調査目的は、日本海溝の深海堆積物試料から地震履歴を解明することです。私はワーキングハーフからの分析試料用のサンプリングを担当しました。この1か月間、たくさんのコア試料を観察し、その行程で海底堆積物について、IODP EXP. 386共同首席研究員の池原 研博士から御指導と御教授を賜りました。このブログでは、コア試料に刻まれた海底における大地の静と動について紹介したいと思います。

写真1:コア試料を観察する池原研博士(撮影:竹林知大)。
私たちの暮らす地球は、複数のプレートに覆われており、太陽系で唯一プレートテクトニクスが働いている惑星です。また地球は、地表に唯一液体の水を保持する惑星で、表面の約70%が海でできています。複数のプレートが存在する中で、プレートが集まる場所では、片方のプレートが地下深部に沈み込む現象が起きています。この場所は「プレート沈み込み帯」と呼ばれ、海底渓谷になっており、そのうち水深6000mを超えるような谷を「海溝」と呼びます。地球上には27カ所の海溝があり、そのうち22カ所が太平洋に存在します。その代表的な海溝が東日本沖の太平洋に存在し、「日本海溝」と呼ばれています。

写真2:日本海溝堆積物からUチャンネル試料を採取する池原研博士(撮影:竹林知大)。
日本海溝は、太平洋プレートがオホーツク海プレート(北アメリカプレートとされることもある)の下に沈み込む場所であり、水深約7000mを超える超深海の谷を形成しています。この海溝では、2011年3月11日14時46分(日本時間)ごろ、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震「東北地方太平洋沖地震」が発生しました。この地震によって多くの尊い人命が失われ、また多くの方々の家屋が津波によって破壊されました。当時、早稲田大学の地球科学教室の1年生だった私は、この頃の日本の様子を鮮明に覚えています。
地震発生時、日本海溝の海底では、「混濁流」と呼ばれる砂や泥などの土砂が攪拌されて運搬される現象が起こります。巻き上がった土砂は、地形に沿って下方へと広がっていき、やがてある場所で急速に堆積することによって「タービダイト」と呼ばれる地層を形成します。タービダイトの層は一般的に地震などのイベントが発生した時に形成されるため、タービダイトの堆積物を「イベント堆積物」と呼び、平穏時に堆積した堆積物と区別をします。一方で地震が起きていない平穏時に形成された堆積物を「ヘミペラジャイト」と呼びます。では「タービダイト」と「ヘミペラジャイト」は、どのような特徴があるのでしょうか?

写真3:池原博士と里口博士(琵琶湖博物館)が議論をする様子(撮影:竹林知大)。
堆積物は、色、粒子の形、粒子の分布、地層の硬さ、水分量、生痕の有無など、極めて多様性に富んでいます。これらの特徴の中で、生痕の有無は、イベント堆積物の判断材料のひとつとして活用されます。例えば、「ヘミペラジャイト」のように穏やかな条件下の堆積物は、粒子が非常にゆっくりとした速度で堆積するため、長い期間にわたり海底面が露出し、そこに底生生物が住み始め、生物が動き回った跡が「バイオターベーション」と呼ばれる黒色の生痕として残ります。一方、タービダイトの場合、巻き上げられた土砂は数日から数週間という短期間で地層を形成するため、底生生物が海底面付近で動き回れる時間が極めて短いので、バイオターベーションが形成されません。

図:タービダイト層とヘミペラジャイト層のイメージ図。左側の堆積物が泥のタービダイト、中央が砂のタービダイト、そして右側の黒い部分がバイオターベーションを表現している(作図:竹林知大)。
タービダイトをよく観察すると、タービダイトごとにも色や粒子の大きさに違いがあります。例えば色に着目した場合、タービダイトは暗灰色、明灰色、すこし緑かかった灰色など様々です。一方の粒子の大きさに着目した場合、短い間隔で砂と泥の互層が存在したり、数mmの礫がある一定の区間に限定して分布したりすることがあります。この違いについて一般的な解釈を挙げると、前者の場合は、組成の違い(構成される粒子の違い)などが考えられ、後者の場合は、供給源からの距離や混濁流の流れの強さなどが考えられます。ただし、これらの変化を読み解くときに、大切な事がもう一つあります。それは、コア試料を連続的に観察する事です。
半割したコア試料は作業台の上に深さ順に連続して置かれます。連続する地層には、「地層累重の法則」と呼ばれる、深い地層の方が浅い地層よりも古いという法則があります。別の例えとして説明すると、映像のフィルムを想像してみてください。もしも映像フィルムを一コマ観たとしても、私たちはそのフィルムに記録された動きを観る事ができません。しかし、前後のコマをどんどん繋げて観てみると、時間と共に対象物の動きが観えてきます。つまり、連続的なコア試料の観察によって、私たちは過去を遡り、その地域で発生したイベントを観る事ができるのです。まさに、タービダイトは地球が残した映像フィルムなのです。

写真4:実験台に置かれたたくさんのコアサンプル。一本あたり約1 mで、作業台には4本(4 m)置かれる。今回は830 m強が並べられる;(撮影:竹林知大)。
EXP. 386 「ちきゅう」(Onshore Science Party)では、「かいめい」によって採取された29カ所、足し合わせたコアの全長が830 m強のコア試料を、1か月以内にすべて記載・分析用試料採取・船上分析を行う事ができました。日本海溝の渓谷に沿って連続的に採取されたコア試料を観察すると、3月11日の大地震や、2011年以前の地層にも繰り返し地震が起きていることが分かり、タービダイトやヘミペラジャイトの多様性によって日本海溝の歴史が少しづつ鮮明化されました。日本海溝の各地点のタービダイトとヘミペラジャイトに記録された大地のフィルムを読み解き、それぞれのフィルムに刻まれた出来事を、場所と時間で繋げていく事により、地球が織りなす悠久な歴史とダイナミックな動きの探究へと繋がるのです。

写真5:池原研 博士(撮影:竹林知大)。
船上レポート06: タービダイトが教えてくれたもの
2022年3月14日(月)
執筆:竹林知大 Ph.D. (名古屋大学大学院 / ふじのくに地球環境史ミュージアム)Ph.D. Tomohiro Takebayashi (Nagoya University / Fujinokuni Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka)
地球科学の研究は、研究する対象によって扱う試料が異なります。具体例を列挙すると、堆積学や古地震学ならば堆積物コアサンプル、古生物や古環境学ならば化石や微化石、岩石学や鉱物学ならば岩石と鉱物、となります。私の専門分野は岩石学・鉱物学なので、岩石や鉱物を研究に活用しています。これまでに私は、日本、アメリカ、カザフスタン、ギリシャ、太平洋海底など、様々な岩石を研究の一環で観察してきました。様々な試料を観察してきましたが、堆積学研究に接する機会が少なく、これまでに実物の堆積物コアサンプルを見た事がありませんでした。

写真1:コアサンプル(撮影:竹林知大)。
EXP. 386の最初の一週間、私はどの堆積物も同じような試料に見え、その多様性に全く気付けませんでした。しかし、私は毎日ワーキングコアサンプルから試料を採取するときにコアを注意深く観察し、さらに堆積学の研究者が記載しているアーカイブコアサンプルも観察しました。「かいめい」によって採取された29カ所を足し合わせたコアの全長は、830 m強と報告されています(池原 ほか, 2021: GSJ 地質ニュース Vol. 10 No. 8)。この830mを1本/(m)と換算し、今回の作業をチーム内で12時間交代で観察を繰り返したとすると、1か月に連続400本以上のコアを観察した事になります。毎日注意深く観察を重ねる事で、私は堆積物の多様性を少しづつ認識できるようになりました。

写真2:ワーキングコアサンプルを運ぶ筆者[撮影:二村康平 (名古屋大学)]。
私の中で一番印象に残っていることは、池原先生がコアを観察するときにラッピングされたコアの上を撫でている場面です。最初は、何をしているのだろう?とか見やすいようにラップのしわを無くしているのだろうか?と思っていました。「ちきゅう」生活での3週間目のとある日、池原先生から「このコアをサンプリングするときに何か違いに気が付かなかった?」と聞かれ、見た目がいつも通りのコアで、その質問が本当に分からないことがありました。そして、「このコアを触ってみてごらん」と私に御助言を頂き、私は池原先生と同じようにラップで覆われたコアの表面を優しく撫でてみました。すると、私が肉眼で見逃していた礫を、触る事で見つける事ができたのです。そして、そのほかの地層に対しても同様に観察することで、より三次元的に堆積物を観察することが出来ることに私は気が付きました。私は、今まで見えなかった世界が見えるように広がった瞬間であり、その感動が今でも心に残っています。観察とは、ただ眼で「見る」だけのものではなかったことを学ぶ事ができました。観察とは、五感を使って「観る」ことだったのです。今回のIODPの活動によって、1か月という短い期間で、私にとってたくさんの知恵と知識が降り積もりました。まさに、私の人生におけるタービダイトを、池原先生が残してくださったのかもしれません。誠にありがとうございました。

写真:池原研先生と筆者[撮影:前田玲奈 博士(JAMSTEC)]
IODP Expedition 386 Japan Trench Paleoseismology – ブログ
航海実施機関である欧州海洋掘削研究コンソーシアム(
元のブログはこちらからご覧ください→https://
Personal Sampling Party (2022/11/15~12/6)
Blog1 (2022/11/22掲載): モーくん、「ちきゅう」に乗る
Blog2 (2022/11/22掲載): Offshore/OSP/PSP – what’s all the fuss?
Blog3 (2022/11/22掲載): モーくん、安全第一!
Blog4 (2022/11/22掲載): モーくん、サイエンスミーティングに参加する
Blog5 (2022/11/25掲載): モーくん、サンプリングフローを学ぶ
Blog6 (2022/12/06掲載): 私の研究計画: Cecilia McHugh
Blog7 (2022/12/06掲載): 私の研究計画: Derek Sawyer
Blog8 (2022/12/28掲載): モーくん最終レポート、船内ツアー、報告書作成、そしてSayonara
最終更新日:2022年12月28日
モーくん、「ちきゅう」に乗る (2022/11/22掲載)
やあ。私はラバのモー。セントラル・ミズーリ大学のマスコットです。私は生層序学者のSally Zellers博士と一緒にIODP Expedition 386で日本海溝から採られた堆積物コア試料から、さらなる研究を進めるための試料をもらうためのパーソナルサンプリングパーティ(Personal Sampling Party:PSP)に参加しています。この堆積物コア試料のいくつかはなんと水深8000 mより深い海底から採られたそうです(新記録!)。このプロジェクトの目的は、巨大地震の発生頻度やその地質的環境の理解を深めるための古地震学と言われる分野の研究です。
PSPは清水港に着岸中の「ちきゅう」で行われています。PSPに 乗船参加するため、研究者は色々な国 ― 米国、オーストラリア、フランス、中国、台湾、英国、オーストリア、ドイツから日本にやってきました。他にも、毎日のscience meetingにリモート参加する研究者もいます。
まずアメリカから東京までの12時間の長いフライトを楽しみました。私が機内でもマスクをしっかり着用していることにお気づきでしょうか?(写真1)日本では、「ちきゅう」に乗船後も常時マスク着用、安全第一です。
東京から清水に来る途中には、ちょっとした観光を楽しみました。富士山の近くの忠霊塔や山中湖、そこから見る素晴らしい富士山(写真2)。忍野八海、お土産屋さん、アイスクリーム、畳の席での和食をいただいたり、日本でも有数のマグロ水揚げを誇る清水の街を散策したり…
ヨットやウィンドサーフィン、カヤック、パドルボートなどのレジャースポットでも知られている三保の海岸にも行きました。もちろん研究も忘れていません−海岸を歩いた後は、寿司、焼きそばについて研究し、いたる所にある!自販機からあったかい飲み物を入手したりして楽しみました。
11月13日の午前にはホテルを出て、たくさんのタクシーに分乗し「ちきゅう」に向かいました。私はちょっと小さいので、タラップを登る時海に落っこちるのではないかと怖かったですが、なんとか無事に登り切りました。船は本当に大きくて、たくさんの通路やデッキがあって、船内案内ツアーのあとも迷子になってしまいそうです。Sallyにはずっとくっついていないと。これまでに色々な船に乗船経験のあるSallyでさえも、その日の午後は自分がどこにいるかわかるのに少し時間がかかっていたみたいです。
居室はとても良い感じで、私は2段ベッドの上段を使うことにしました(写真3)。もちろん、Sallyもそれに賛成してくれました。
午後にはPSPでの作業内容とかの説明がありました。作業が軌道に乗るまでは少しかかるかもしれませんね。続きはまた次のブログで!
モー・ザ・ミュール

写真1. 機内でもマスク着用!

写真2. 富士山と忠霊塔

写真3. 「ちきゅう」での私の居室をご紹介。私はどこにいるでしょう?
Offshore/OSP/PSP – what’s all the fuss? (2022/11/22掲載)
今日、11月15日はExpedition 386 Japan Trench Paleoseismologyにとって重要な日だ。
が、それがなぜかを理解するには、時を随分前に−世界が今みたいになってしまうより前に遡らなければならない。
このプロジェクトは2019年、Co-Chiefである池原研とMichi Strasser、IODPの日本の執行機関であるJAMSTEC MarE3とヨーロッパの執行機関であるECORD ESOとが水深何千mもの日本海溝の海底から堆積物コアを採取しようとする、挑戦的で先駆的な実施計画を策定したところから始まった。その目的は、太平洋でも地殻運動が活発なこの海域で発生した巨大地震の記録を得ることにある。航海フェーズはJAMSTEC が運用する海底広域研究船「かいめい」にて、ESOとMarE3の合同スタッフ、そして各国から招聘された研究者によって実施することになっていた。航海は2020年4月-6月。期待が世界中を駆け巡っていた。
そして、世界が変わった。
Offshore
航海の延期で大きな失望感に苛まれつつも、世界中に感染が広がる中、我々が健康でいられることに感謝していた。航海実施の延期先が2021年4月となり、再び希望の火が灯る。COVID-19が依然として深刻な状況のなか、精力的かつ膨大な努力の末、航海実施に漕ぎ着く。日本在住メンバーのみの乗船となったのは残念なことだったが、それでも我々のプロジェクトはまだ生きている。
航海フェーズは2021年4月-6月に「かいめい」で実施され、日本海構に沿って堆積物コアを採取、コア試料採取の最大水深記録を更新(水深8000 m以上!)。15サイトから合計831 mの堆積物コアを採取した。プロジェクトの航海フェーズは成功した。が、いつになったら対パンデミック体制から解放され、日本に行けるのか。
The Onshore Science Party
航海実施後、我々ESOのIODP航海では通常、研究者がそれぞれの研究室に持ち帰って分析するための試料を分配するOnshore Science Party (OSP)を実施しており、航海フェーズに乗船した研究者も、非乗船の研究者も皆が一堂に会してサンプリングを行う、非常に重要な機会である。OSPは数週間にわたって実施、そこでコア試料は初めて半裁され、集まった国内外の研究者はそこに隠された地球の歴史の秘密についに触れる。そして研究計画をより深め、また新たなアイディアや共同研究などの種を見出すことができるはずだった。
しかし、COVID-19が再度大きな波となってロックダウンや渡航禁止措置を引き起こし、またも我々の希望が絶たれた。またしてもプランB発動、日本在住メンバーによる献身的な貢献を実施計画に組み入れる。Expedition 386 OSPは、その目的を最小限のIODP標準測定および個別試料採取に絞り込み、日本在住の研究者およびMarE3のみで実施することになった。同時にESOは各国の研究者をデータ取りまとめや報告書作成などで24時間リモート参加できる体制を構築。OSPは地球深部探査船「ちきゅう」にて2022年2月-3月に実施された。
この大掛かりで複雑な取り組みにより、必要最小限のデータセットを得ることができた。しかし、IODP研究航海として重要な位置を占める、各研究者がそれぞれのテーマで分析を行うための試料分配は未だできておらず、それがいつできるかもまだ分からなかった。
The Personal Sampling Party
個別研究用試料の分配が未だなされていないなか、各国の研究者が集まれるのではないかと期待が高まる。そう、我々は2022年夏、ついに11月-12月の3週間での実施を決定した。Personal Sampling PartyあるいはPSPに、今度こそこのプロジェクトにかかわる全研究者が参加し、ESOとMarE3合同で、OSPに引き続き「ちきゅう」にて実施することになった。
ここまでたどり着くまでに、膨大な量のロジスティクス上の問題解決を含め、想像を絶する量の努力が払われた。通常でも10数カ国からなる50名近くの参加者を取りまとめるのは大変であるのに、パンデミックに加えてウクライナで勃発した戦争による世界情勢の変化までもが、このプロジェクトを長く険しい道に叩き込んだ。
それでもついに、11月15日の今日、0時から、0-12時作業チームが「ちきゅう」のコアラボに集合し、コア試料から最初のサンプルを採取し、ラボは興奮に包まれた。12-24時作業チームは正午に作業を引き継ぐ。全23名の乗船研究者と、ESO、MarE3スタッフ、MWJラボテクが最後のコア試料からのサンプリングが終了するまで24時間体制で作業をする。
そしてExpedition 386のサイエンスがいよいよ始まるのだ。
こんなに幸せなことはない。最高にハッピーだ。
Jez Everest

写真1. 「ちきゅう」のラボ。 写真提供:J.Everest

写真2. コア試料からのサンプル採取の様子。 写真提供:J.Everest
モーくん、安全第一!(2022/11/22掲載)

写真1. 「ちきゅう」乗船チーム
やあ。ラバのモーです。研究船は洋上に出ていても、港に着岸中でも、週に1度は退船訓練:シップドリルがあります。船員も研究者も、安全靴・保護メガネ・カバーオール・ヘルメット・救命胴衣を身に付けなくてはいけません。居室にはサバイバルスーツや煙やガスが船内に充満した時の避難用呼吸器具も備え付けられています。残念ながら私の体に合う救命胴衣はなかったので、Sallyが私専用の救命胴衣を、地球化学者のMartinがヘルメットを作ってくれました。
乗船している全ての人に対して、割り当てられた居室に従ってそれぞれ救命艇が指定されています。警報がなったら、それぞれが自分の割り当てられた救命艇集合場所、または代替救命艇集合場所に向かいます。集合場所に着いたら、自分の名前が書かれたカードを裏返して、集合したことを表明します。乗船2日目の初めてのシップドリルでは、救命艇リーダーから水中避難時の低体温症のリスクと危険性について説明がありました(今回、船は着岸中なので、水中避難する状況はほぼありませんが)。
シップドリルの後で、私たちはヘリデッキに行って研究航海では恒例の集合写真を撮りました。何枚か普通に撮ったあとで、Sallyがみんなに”snouts out”サイン(手でキツネを作るように親指に中指と薬指をつけ、人差し指と小指を立てるサイン)をみんなにお願いしました。これで私はセントラル・ミズーリ大学の仲間たちに写真をシェアできますね!
モー・ザ・ミュール

写真2. マスコットも安全具を身につけねばなりません!写真提供:Sally Zellars

写真3. 各乗船者(とマスコット)には救命艇が指定されています。写真提供:Sally Zellars
モーくん、サイエンスミーティングに参加する (2022/11/22掲載)

写真1. 研究者は堆積物コアを見て、記載して、試料をサンプリングします。
やあ。ラバのモーです。私が出会った研究者たちは、2021年の春、海底広域研究船「かいめい」で深海底から堆積物コアをとるための航海から始まったこのプロジェクトの半ばにいます。私たちはこの日本に、個別研究用試料のサンプリング(Personal Sampling Party:PSP)に来ています。18,000個以上の試料のサンプリング達成に向けて皆お互いに助け合いながら作業をしていて、とても良いことです。サンプリングの様子は次のブログをお楽しみに!
ところで今日は、これまで行われてきたサイエンスについて紹介しようと思います。私は昨日初めてサイエンスミーティングに参加しました。サイエンスミーティングは毎日深夜0時、12-24時作業チームから0-12作業チームへのシフト交代の時に行われます。私は一番前の席に座って、Co-Chiefの一人であるMichi Strasser博士がこれまでに得られた結果と今後の計画について話したのを聞いていました。もう一人のCo-Chiefである池原研博士からもいくつかコメントがあり、研究者との議論もありました。と言ったものの、私はただのマスコットで、本当のところ話の詳細が理解できなかったので、PSPで採取した試料でみんなが何をするつもりなのか質問しなくてはいけませんでした。
研究者の中には、日本海溝の深いところに堆積している泥やシルト、砂の層にどんな鉱物が入っているのか分析する堆積学者が数名います。堆積物がいつたまったのかを微化石を使って分析する微古生物学者がいます。堆積物がどのくらいの強度か計測する物性計測の専門家や、堆積物中の磁性鉱物を調べて年代計測を行う研究者もいます。堆積物コアを採取した地点それぞれの関係を地球物理学データで解析する研究者もいれば、火山の噴火によって堆積した火山灰層を解析する研究者もいます。地球化学者はといえば、堆積物コアに含まれる間隙水や堆積物の成分を研究します。これらすべての分野で東北沖において津波や巨大地震がどの程度の頻度で発生してきたかを明らかにするというプロジェクトの目的に沿って研究をする必要があるのです。
最後に、私はサンプルの管理をしてくれるキュレータ、データマネージャ、EPM、JAMSTEC MarE3のスタッフ、「ちきゅう」のラボテクニシャンとクルーがいなければ、このPSPは実現不可能であったということを知りました。
さて、私はこれから次のブログでコアフローをご紹介するために勉強しつつ、研究者のお手伝いをしてきます。
モー・ザ・ミュール

写真2. サイエンスミーティングではCo-Chiefの一人であるMichi Strasserがこれまでに得られた研究結果や質問(私からのも)に答えてくれました。 写真提供:Sally Zellers

写真3. 個別研究用試料をサンプリングした後、堆積物コア試料本体が崩壊しないようにフォームを入れて穴を塞ぎます。写真提供:Sally Zellers
モーくん、サンプリングフローを学ぶ (2022/11/25掲載)
皆さんこんにちは。私はニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で地球化学分野の教授を務めているTroy Rasburyです。私は日本海溝でとられた堆積物コアからどんなふうに研究者持ち帰り用のサンプルを採取するのか、その「サンプリングフロー」を12-24時作業チームと共にラバのモーくんに紹介しました。こちらでもその様子をお伝えしたいと思います。
サンプリングフローは、コンテナからコア試料を取り出すところから始まります(写真1)。このコンテナは冷蔵庫になっていて、コア試料を低温保管しておくことができます。それから、物理特性の専門家によって、コア試料の剪断強度の測定が行われます(写真2)。研究者のほぼ全員が様々な分析を行うために持ち帰り用サンプルをリクエストしています。モーくんはサンプルを採取するためのツールにはいろいろな種類があり、研究者が目的などに応じてそれぞれ使い分けていることに気が付きました。サンプリングツールにはスクープ(半月形のスコップ)、チューブ(約2センチの円筒)、1/4ラウンド(スパチュラで堆積物を採取する)、U-channel(約2センチ幅のU型の容器でコア試料の端から端まで一度に連続的に採取する)、堆積物の表面をちょこっとだけ採取、などなどあります(写真3-4)。コア試料の岩層を記載するために、ときおり、爪楊枝の先でコア試料の表面からサンプルをちょっと取って、その場で顕微鏡観察を行うこともあります(写真5)。
コア試料がサンプリング作業用のテーブルに届けられると、研究者たちはラベル付きの様々なサイズのサンプル袋を受け取ります。サンプル袋にはサンプルをどのコア試料のどの位置から採取するのかが書かれています。この大量!にある小さなサンプル袋は小さじ1/4程度の量のサンプル用(写真6)。注意深く慎重にコア試料からサンプルを採取した後は、シーラーを使ってしっかりとサンプル袋に封をし、研究者ごとに割り当てられた仕分けボックスに入れていきます。こうして採取されたサンプルは、あるものは常温で、必要に応じて冷凍や冷蔵で、それぞれの研究者の元に発送されるのです。ちなみに、モーくんはサンプリングを手伝ってくれていたのですが、あまりにも熱中していたら、国立台湾大学のSteven Huang博士に自分自身がサンプリングされてしまったようです(写真7-9)。
その後、Sally Zellers博士は、モーくんがラベルを貼られて、専用の仕分けボックスに入れられて、アメリカに発送されてしまいそうになっていることを知って、びっくりしてしまいました。モーくん、サンプルと一緒に発送されてしまう前にSallyに見つけてもらってよかったですね!モーくんには、まだまだ「ちきゅう」でやらなければならないことがたくさんあるので家に帰るわけにはいかないのです。
Dr. Troy Rasbury
ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校 地球惑星科学科

写真1-9. サンプリングフローを学ぶモーくん。最後にはまさかの…?!
私の研究計画: Cecilia McHugh (2022/12/06掲載)
私の研究の目的は、地震によって形成された海底の地層が具体的にどのようなプロセスで堆積したのかを調べることです。特に、巨大津波を発生させる海底面の変動を引き起こすような巨大地震によって形成される地層に興味があります。海溝で発生する海溝型巨大地震は、ときに100 kmにおよぶ範囲の堆積物に影響を及ぼし、特有の地層を形成するのです。
この特有の地層の特徴を明らかにするため、地層中に含まれるストロンチウム、ネオジム、鉛、炭素、窒素、オパール、セシウムなど様々な元素や鉱物を対象として、従来から行なってきている分析手法による解析や、新しい分析手法の開発を行います。これにより、例えば地層中にみられるタービダイト(地震によって形成される地層の一つ)や、地震のない期間に積もった地層に含まれる砂や泥が元々どこからやってきたものなのか、いつ堆積したものなのかなどを知ることができます。
更に、以下のような科学的問いにもアプローチすることができます。
① 地層の物理的・化学的特徴を調べることで、地震によって形成された部分とそうでない部分を特定することができるのか?
② homogenites(タービダイトの上部にみられる無構造の泥部分)はどのようなプロセスで堆積したか?
③ homogenitesとタービダイトは同じ供給源を持つのか、それとも異なるのか?
④ homogenitesは地震に特有の記録を残しているのか?
⑤ 地震によって形成された特徴的な堆積物が地層として残る過程で、堆積物のたまる速度はどのような役割を果たしているのか?
⑥ 半減期が短い放射性同位体を使って地震によって形成された堆積物の年代を特定することはできるのか?また、100 km以上離れている海盆間で地震の記録を対比する事ができるのか?
私の研究は、Troy、Joel、Sallyをはじめとしたサイエンスパーティと共同で、また、ミネソタ大学St. Anthony’s Falls Laboratoryで現在行っている物性実験の結果と合わせて進めています。
Dr. Cecilia McHugh,
ニューヨーク市立大学クイーンズ校 School of Earth and Environmental Sciences
私の研究計画: Derek Sawyer (2022/12/06掲載)
IODP Exp. 386の初期分析結果は、日本海溝の海盆の堆積物の上層において、ゆっくり静かに降り積もった通常の堆積物が、ところどころ急激に積もった堆積物に置き換わっていることを示している。私の研究は、その日本海溝の堆積物の剪断強度の指標に着目したものである。
海底堆積物の強度特性は、海底斜面の安定性や堆積物の地すべり過程を推測する上で重要なファクターである。一般的に、堆積物の剪断強度は堆積物の埋没深度が大きくなるほど増加する。しかし、最近の研究では、堆積物が地震によって揺さぶられると、振動による脱水で圧密され、その結果埋没しただけの場合と比較しても剪断強度が高くなることが示されている。
この“seismic strengthening”効果といわれるものはまだ新しい概念で、Exp. 386は我々にさらなる知見を得る機会を提供してくれた。例えば、ゆっくり静かに積もった通常の地層はより古いため、より多くの振動イベントを経験している。一方で、地震などにより積もったイベント層は、通常の地層から急速に置き換わったものである。もし”seismic strengthening”効果が日本海溝の堆積物の剪断強度に影響していると仮定すると、剪断強度がより高い部分は多くの振動を経験している=ゆっくり堆積した古い地層と推測され、剪断強度がより低い部分は急速に堆積した部分=イベント層に対応している、と推測することができる。
さらに、静かに積もった地層とイベント層の強度の差は、イベント層が堆積後に振動イベントを経験するほど圧密が進むため、深度が大きくなるほどその差は少なくなる。しかし、このシンプルな仮説は堆積年代、堆積速度、浸透率、堆積層の岩層によって影響を受ける。今後は粒度分析などを行うことで仮説を検証していく予定である。
Dr. Derek Sawyer
オハイオ州立大学 地球科学科
モーくん最終レポート、船内ツアー、報告書作成、そして Sayonara (2022/12/28掲載)
やあ。ラバのモーです。私からのExp. 386 PSP最後のレポートをお届けします。私とSallyはすでに家に戻りましたが、「ちきゅう」とそこで出会った仲間たちや、日本の素晴らしい人々にお別れをいう前に、もうちょっとだけお伝えしたいことがあります。
私たちが全部で18,192個にもおよぶサンプルを取り終えた後、少人数のグループに分かれての船内ツアー(デリックの頂上を含む!)が催されました。ツアーは”ドッグハウス”と呼ばれる、掘削フロアにありドリラーが全ての掘削機器の制御とモニターを行うための最新の制御システムのある場所から始まりました。イギリス地質調査所のHannah Grant(写真1)や他のみんなはドリラーのサイバーチェアに座ってコントローラーを握ってみましたよ。そのあと、私たちはドッグハウスから出て、掘削フロアのいろいろな機器を見て回りました。写真2では、Troy Rasbury博士がドリルパイプを上げ下げしたり、回転させたり、掘削泥水を掘削孔に送り込んだりするための”トップドライブ”の前にいます。驚くべきことに、このトップドライブは11,000 mものドリルパイプの吊り下げが可能とのこと!そして、私が乗っているのは”アイアンラフネック”(写真3)。ドリルパイプはねじ回しの要領で繋げたり外したりしますが、それを油圧システムで行うための装置です。写真4に見えるのは深海の底へ、海底の奥深くまで届くドリルパイプを吊り下げたトップドライブを制御するためのぶっといケーブルが巻かれたウィンチです。

写真1(左上):サイバーチェアに座るHannah Grant、写真2(右上):トップドライブとTroy Rasbury博士、写真3(左下):アイアンラフネックと私、写真4(右下):ウィンチ
次に、私たちは4人乗りの小さなエレベータに乗ってデリックの頂上に行きました。なんてすごい眺め!船尾方向にはドリルパイプやライザーパイプがたくさん並んだパイプラック、船首方向にはヘリデッキが見えます。居室のあるエリア、ラボ、食堂やブリッジは全て船首エリアに、掘削やコアリングのための物資や機器類は船の中央エリアと船尾エリアに配置されているのがよくわかります(写真5と6)。そしてとーっても大きい音のするエンジンルームを覗いてから、暴噴防止装置や掘削泥水のタンクを見て、最後にムーンプールに行きました。ムーンプールとは船の真ん中に空いている穴で、ドリルパイプやライザーパイプはその穴を通って海中へと降ろされていきます。私はこのプールでちょっと泳いでみたかったのですが、ツアーガイドをしてくれたチーフセーフティオフィサーのTeddyに止められたので、上から眺めるだけにしておきました(写真7)。
PSPの最後の数日間、研究者のみんなは今年の3月のOSPから作成を進めていた成果報告書を仕上げるための加筆、修正などの編集作業で忙しくしていました。報告書は研究者、co-chief、expedition project manager、publication specialist、それぞれの観点からたくさんのチェックがされます。各分析分野チームのリーダーを務める研究者とco-chief、expedition project manager、publication specialistは、数ヶ月後にテキサスのカレッジステーションに集まって報告書の出版準備を行う予定です。
さて、その後は?研究者たちはそれぞれが採取したサンプルを様々な手法で分析し、18ヶ月後にその結果を議論するために再び集まります。研究はまだまだ終わらないのです – Expedition 386のコア試料で日本海溝の地震の歴史の秘密を明らかにするまでは!
それでは、Sayonara!
モー・ザ・ミュール

写真5(左上)と写真6(右上):デリック頂上からの眺め。写真7(下):ムーンプールをチラッと覗いてきました。