航海概要
テーマ
Sumatra Subduction Zone -The role of input materials in shallow seismogenic slip and forearc plateau development
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航海予定期間
2016年8月6日~10月6日
掘削船
JOIDES Resolution
乗船/下船地
コロンボ(スリランカ)/シンガポール
掘削地点
科学目的
The Sumatra Seismogenic Zone expedition (IODP Proposal 837-Full & 837-Add) aims to establish (1) the initial and evolving properties of the North Sumatran incoming sediments and (2) their potential effect on seismogenesis, tsunamigenesis, and forearc development for comparison with global examples. The 2004 Mw 9.2 earthquake and tsunami that struck North Sumatra and the Andaman-Nicobar Islands devastated coastal communities around the Indian Ocean. This earthquake showed unexpectedly shallow megathrust slip that was focused beneath the accretionary prism including the distinctive prism plateau offshore North Sumatra. This intriguing seismogenic behavior and forearc structure are not well explained by existing models and by relationships observed at margins where seismogenic slip typically occurs further landward. The correspondence between the 2004 rupture location and the overlying prism plateau, and evidence for a strengthened thick sediment input section suggests that the input materials are key to driving this distinctive slip behavior and long-term forearc structure.
スマトラ沈み込み帯のテクトニックセッティング
(星印が掘削サイト)
各掘削サイトの概要
※実際のオペレーションは後に公開されるScientific Prospectusに基づいて行われます。この情報は、オリジナルのプロポーザルに基づくものですのであくまで参考情報です。
SUMA-08B
- 掘削予定深度:1,760m(堆積物:1,750m/基盤岩:10m)(水深:4,130m)
- 岩相:
堆積物:半遠洋性泥岩、遠洋性泥岩、泥質タービダイト、薄層シルト・砂岩
基盤岩:玄武岩、玄武岩質角礫岩 - 年代:不明(Pliocene ~ Quarternary?:ニコバール海底扇状地堆積物及びそれ以前の堆積物)
- コアリング:APC、XCB、RCB
- ロギング:
Standerd Measurements: WL
Special Tools: Temperature and Pressure, VSP
SUMA-10A
- 掘削予定深度:1,400m(水深:4,410m)
- 岩相:半遠洋性泥岩、遠洋性泥岩、堆積物重力流による泥岩(タービダイト含む)、薄層シルト・砂岩
- 年代:不明(Pliocene ~ Quarternary?)
- コアリング:APC、XCB、RCB
- ロギング:
Standerd Measurements: WL
Special Tools: Temperature and Pressure, VSP
※コアリングについて
- APC (Advanced Piston Corer):軟質なウーズや堆積物に使用される
- XCB (Extended Core Barrel):固結した堆積物に使用される
- RCB (Rotary Core Barrel):結晶化した硬質な堆積物及び岩石に使用される
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共同首席研究者
Lisa McNeill & Brandon Dugan
J-DESCからの乗船研究者
大学院生(博士)
氏名 | 所属 | 役職 | 乗船中の役割 |
尾張聡子 | 千葉大学 | 大学院生(博士) | Inorganic Geochemist |
藏永 萌 | 山口大学 | 大学院生(修士) | Petrophysics (Physical Properties) Specialist |
浜橋真理 | 産業技術総合研究所 | 特別研究員 | Structural Geologist |
向吉秀樹 | 島根大学 | 助教 | Sedimentologist |
乗船に関わるサポート情報
乗船研究者としてIOから招聘される方には乗船前から乗船後に至る過程の数年間に様々なサポートを行っています。主な項目は以下の通りです。
- プレクルーズトレーニング:乗船前の戦略会議やスキルアップトレーニング
- 乗船旅費:乗下船に関わる旅費支援
- アフタークルーズワーク:モラトリアム期間中の分析
- 乗船後研究:下船後最長3年で行う研究の研究費
乗船の手引き(乗船前準備や船上作業・生活方法に関する経験者からのアドバイス集)>>こちら
追加募集情報
募集分野
diatom, radiolaria, and foraminifera micropaleontologists
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募集〆切
2015年6月24日(水)〆切ました。
注意事項
応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
募集情報
募集分野
- Sedimentology
- Structural geology
- Paleontology
- Biostratigraphy
- Paleomagnetology
- Petrophysics
- Borehole geophysics
- Microbiology
- Inorganic/organic geochemistry
- この他関連する分野
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募集〆切
2015年4月15日(水)終了しました。
注意事項
応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。
修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
2021年3月10日 データレポートが発表されました.
“Data report: electrical resistivity of sediments from Site U1480, IODP Expedition 362, Sumatra subduction zone,” by Mari Hamahashi was published today, 10 March 2021, in Volume 363 of the Proceedings of the International Ocean Discovery Program.
The paper can be found here: http://publications.iodp.org/proceedings/362/205/362_205.html
The DOI for this report is 10.14379/iodp.proc.362.205.2021
最終更新日:2016年10月04日
※日付は日本時間
レポートインデックス
レポート7(2016年10月03日)>>「Last Core On Deck!!」
レポート6(2016年9月21日)>>「9月10日 晴れ(気温28℃・水温29℃)」
レポート5(2016年9月12日)>>『JR号のペットたち』
レポート4(2016年9月05日)>>IODP Exp. 362 Sumatra Seismogenic zone:コアの解析
レポート3(2016年8月29日)>>『海洋掘削と地球化学分野研究者の船上での役割について』
レポート2(2016年8月22日)>>IODP Exp. 362 Sumatra Seismogenic zone: 掘削開始とサイエンスチームの始動
レポート1(2016年8月10日)>>航海開始!
レポート7 「Last Core On Deck!!」
尾張 聡子
(千葉大学 大学院生(博士))
藏永 萌
(山口大学 大学院生(修士))
千葉大学の尾張聡子と、山口大学の藏永萌です。
長かった第362航海も9週目に入り、残すところあと数日となりました。現在はすべてのサイトでのコアリングとロギングを終え、最後の仕事であるサイトレポートの執筆に取り組んでいます。様々なトラブルや終わらない作業にも負けずに、測定や観察を続けてきましたが、こうして作業がすべて終了してしまうと、あの忙しさが懐かしく思えます。
さて、航海レポートも今回で最終回ということで、今回は第362航海の最後のコアオンデックの様子についてレポートしていきたいと思います。
第362航海の最後のコアは、2016年9月30日、夜10:30頃に上がってきました。普段であれば、コアが上がってくる際に待機しているのは、コアの切り分けを行うテクニシャンの方々と、上がりたてのコアから試料を採取する地球化学チーム・微化石チームくらいなのですが、今回はなんといっても第362航海での最後のコアです。乗船研究者全員が、コアが上がるまで、作業の合間にやぐらのモニタリングを見たり、キャットウォークを眺めてみたりして、コアが上がってくるのを今か今かと待ちわびていました。夜も更けて、シフトチェンジの時間が近くなってきたころに、とうとう「Last core on deck!!」のアナウンスが響きました。ヘルメットと安全ゴーグルを装着し、さらにテクニシャンの方から「最後だから特別にコアを運ぶのを手伝ってもいいよ!」といわれ、手袋もはめてキャットウォークに向かいます。待ちに待った最後のコアは、リカバリーの非常にいい素晴らしいコアでした。テクニシャンの方々に補助してもらいながら、乗船研究者で一列になり、コアを運びました。まだセクションごとに切り分けられていないコアはとても重く、ですが乗船者みんなでここまで頑張ってきたのだなという達成感も感じ、コアを運びながらとても充実した気持ちになることができました。ちなみに、第362航海で2番目に掘削したサイトU1481は、水深と掘削深度を合わせた総合計深度が5678 mであり、これは今までのDSDP/ODP/IODPの航海の中で最も深い深度になるそうです。
今回の航海レポートの執筆者である私たちにとって、JR号への乗船は初めてであり、最初の頃は慣れないことも多く、不安を感じることもありました。しかし、乗船者の方々はとても親切で、研究面でも生活面でも分からない部分は丁寧に優しく指導をしてくださいました。そして同じ一研究者として毎日共に測定や観察を進めていくうちに、不安な気持ちが消え、どんどんJR号での研究や生活が楽しくなっていくのを感じました。今では、日本にもうすぐ帰国できることが嬉しい反面、乗船者の方々と過ごせる日が徐々に減っていくことがとても寂しく思えます。この第362航海で、私たちは数多くの貴重な経験と国際色豊かな仲間を得ることができました。残りの日々も充実した時間を過ごし、たくさんの思い出と共に日本への帰路につければと思っています。
レポート6 「9月10日 晴れ(気温28℃・水温29℃)」
浜橋 真理
(産業技術総合研究所 特別研究員)
9月10日(土)は記憶に残る大切な日でした。
この日、スマトラ沖を掘削しているJoides Resolution号では、サイトのまとめミーティングと、手作り凧コンテスト(Kite Contest)の二つの大きな行事がありました。
★サイトのまとめミーティング (Site Meeting)
サイトミーティングとは、一つの場所で掘削が一段落ついた後に、各研究チームが船上で取得した一次データの解析結果を発表し、議論する会議のことです。
私はこの日Structural geology team(構造地質チーム)を代表してみんなの前で発表をしました。
Structural geology teamの船上のミッションは、堆積構造や変形構造を記載し、その深度分布と方位、前後関係や応力場を評価することです。また、掘削に伴う変形を記録し、堆積物・岩石の物性・強度の一次的な推定を行っています。
広い視野を持ち、ときに地域的・広域なテクトニクスなどと結び付ける発想力も大事です。
コアを観察する際、自分にとって新しいものを見たときに、多くのことを勉強できますが、これまで自分がフィールド(露頭)で見た構造を思い出して、共通点や相違点を見出せるときこそ、いろいろなことを学べてとても楽しいです。
各メンバーのこれまでの異なる経験を活かせる分、チームで記載方法のすり合わせを行う必要があるときが度々あります。
みんなで率直な議論をして、異なる意見を受け入れながら、観察した産状に素直に向き合い、構造を記録することにやりがいを感じています。
サイトミーティングに向けて、チームで議論した内容をスライドにまとめて準備をしました。
お昼のバーベキューでしっかり精をつけて、ミーティングに挑みました。
★手作り凧コンテスト (Kite Contest)
サイトミーティングが終わった後、みんなで外に出て、船の先端にあるヘリデッキ広場に向かいました。空は晴れ渡り、太陽が眩しく照っていました。トンネルを抜けた後のように、とても眩しかったので、サングラスをかけました。遠くには白い入道雲が見え、青空を飾っていました。
Joides Resolution恒例のKite contestは、自分たちで作ったユニークな凧を飛ばし、デザインや飛ぶ様子を競い合うコンテストです。
じつは、この日までデータ解析、ミーティングの準備とサイトレポートに追われ、私は凧を作りそびれていました。しかし、朝方になって、友達(イギリスからの乗船研究者)と話し、限られた材料で試行錯誤しながら一緒に一つの凧を作ることができました。
思い当たったままに作った凧は、骨組みがランダムに交差し、悪く言えばいびつ、良く言えば結構神秘的な形を成しました。大きい凧が出来上がりましたが、強度を上げるために木材とガムテープをたくさん使ったので少し重たくなりました。
外は風が程よくあり、凧を飛ばすには好都合のはずなのですが、それでも難しかったです。
風が吹くタイミングを見計らい、作った凧を空に勢いよく投げてみました。一瞬空中にとどまったかと思ったら、凧は自身の重力に逆らえず下に落ちてしまいます。凧糸を持ち、助走をつけて、凧を引っ張りました。ふわっと浮いた感覚がしたかと思って振り向くと、凧は激しく落下していました。何度も挑みましたが、凧は重く、風に乗る翼が足りないようでした。
ふと気づいたら、まわりには同じように凧を必死に飛ばす人たちがたくさんいました。みんな応援しあって、凧を持ち上げています。一人一人の個性が表れている凧は、一つとして同じものはありません。
となりでは、日本から一緒に参加をしている尾張さんと藏永さんも自分でデザインをした凧を一生懸命飛ばしていました。私も彼女らの応援にまわりました。
中には、「凧名人」が数名いて、船から遠くまで飛んだ凧は、海原の大空で驚くほど(もはや肉眼では見えないくらい)小さくなっていました。
Kite Contestが終わったあと、審査員であるCo-chief scientists(共同首席研究者)により、実に様々な種類の賞が授与されました:
Highest Flying(一番高く上がった凧), Most Creative(ユニーク賞), Smallest(最小の凧), Most Acrobatic(躍動感あふれる凧), Most Spectacular Crash(最も激しく落下した凧), Most Fun(一番楽しんでいたで賞?), Most Artistic(芸術賞), Most Wearable(最も着られそうで賞←服を使った凧), Most Traditional(最も古典的な凧), Most Independent (最も独立に飛んだ凧), Most Time Put In(一番時間をかけたで賞), Best Effort(努力賞), Best Save(最もセーブしたで賞?).
受賞者のリストを見ると、尾張さんと藏永さんと私がBest Effort Awardに選ばれていました!
「あれ、なんで私の名前が入っているんだろう」と思いました。
凧は飛ばなかったのですが、みんなで奮闘する姿を見ていてくれたようです。
うまくいかず失敗しても、頑張ること自体の価値と、チームワークの楽しさを実感した一日でした。
レポート5 『JR号のペットたち』
向吉 秀樹
(島根大学 助教)
島根大学の向吉です。
今回私は堆積学者としてJoides Resolution号(JR号)に乗船しています。
堆積学者の船上での主な作業は、海底から採取されたコアの記載です。半裁されたコアのうち、アーカイブハーフを用いて、コアの色や粒度、構成粒子や粒間充填物の種類及び割合、堆積構造、淘汰具合、生痕化石や微化石の有無などについて、肉眼観察及び顕微鏡観察を行い記載していきます。記載が終わるとその情報をPCに入力します。コア記載の他に、コアのイメージスキャンと色測定も行います。
第362次航海では、堆積学者が6名乗船しています。昼シフトと夜シフトに3名ずついるため、上記の作業を3人で分担して行うことができます。ただし、回収率が100%近く、岩相変化に富んだコアを記載する際には、3人で分担してもコア1本の記載に2時間以上かかることがあります。そのようなコアが上がってきたときには、記載テーブル周辺が少し慌しくなります。
さて、今回私の方では、JR号で飼われているペットについて紹介したいと思います。
JR号船上では何匹かのペットが飼われているようで、たまにラボに現れます。2週間ほど前からは、Roniという名の犬がラボにいます。Roniはラボ内を走り回らないようにローブで作業台に繋がれています。どれだけ撫でても表情一つ変えないので無愛想な感じもしますが、ラボ内で作業している時にふと目が合ったりすると、少しばかり心が和みます。コアの記載に行き詰まった時や、なかなかコアが上がってこない時に、たまにこっそりとRoniとにらめっこをしたりします。他の乗船研究者たちも、時間が空いた時にRoniとラボ内を散歩したり、じゃれあったりしています。
JR号では、Roniの他にもその航海限定の(と思われます)ペットも現れます。第362次航海では、今のところ犬のMikan(本名を知りません。勝手に名付けました)と猫のShima(本名を知りません。勝手に名付けました)がラボ内に現れています。誰が連れてくるのかわからないですが、これらのペットはある日突然現れます。MikanとShimaはロープで繋がれることなく、ラボ内を自由に移動しています。MikanもShimaもサンプリング台周辺がお気に入りのようで、コアのサンプリング時によく見かけます。MikanはたまにRoniの頭の上にいることもあります。いずれのペットもラボ内を和ませてくれる貴重な存在です。
現在JR号は2か所目のサイトに到着し、掘削の準備を行っているところです。この間、乗船研究者たちは、1か所目のサイトで採取されたコアの観察結果および各種測定結果をレポートにまとめる作業をしています。レポート提出が無事に終わり、少し落ち着いてきたら、私もペットを1匹増やそうと考えながら作業をしている今日この頃です。
レポート4 IODP Exp. 362 Sumatra Seismogenic zone:コアの解析
藏永 萌
(山口大学 大学院生(修士))
山口大学の藏永萌です。
2016年8月9日に出港した第362次航海も5週目に入り、約2か月間の航海のおおよそ半分が終了したことになります。
今回の航海では、スマトラ沖の2か所のサイトから全長約1400 mのコアを1本ずつ掘削する予定で、現在はひとつめのサイトであるU1480の掘削がまもなく終了するところです。
コアの掘削からはじまりレポートが完成するまで、JR号の乗組員及び乗船研究者が一丸となって日々作業に励んでいます。その中で、今回は(1)JR号でのコアが海底から上がり測定が終了するまでの基本的な流れと、(2)私が所属する物性グループの船上作業について紹介します。
(1)コアが海底から上がり測定が終了するまで
JR号では、まずコアが海底から引き揚げられ船上にやってくると、「Core on Deck!」のアナウンスが流れます。そして、約9.5 m(リカバリーによっては短い場合もあります)のコアがリグフロアからキャットウォークに運ばれます。キャットウォークでは、テクニシャンの方々によってコアが約1.5 mごとのセクションに切断されます。また、このタイミングで地球化学チームが化学分析用の試料を採取します。続いて、セクションごとに分けられたコアはコアラボに運ばれ、レーザーによるセクション識別番号の印字や、識別用バーコードラベルの貼りつけが行われます。その後、コアの温度を室温と均衡させるため、コアをコアラックに数時間保管します。コアの物性値は温度変化により変動します。通常、海底から採取されたばかりのコアは室温より低いため、温度が安定するまで待ってからコアの物性計測を行います。コアの温度が室温と同じになったら、いよいよ測定開始です。
最初に物性グループによって、ガンマ線密度測定、自然ガンマ線測定、帯磁率測定、P波速度測定の4種類の物性値測定がホールコアの状態で行われます。その後、テクニシャンの方々によってホールコアが半割され、ワーキングコアとアーカイブコアに分けられます。
アーカイブコアは、記載テーブルの上に置かれ、堆積学グループによる記載や観察が行われます。一方、ワーキングコアはサンプリングテーブルに運ばれ、構造地質グループによる構造解析が行われた後、物性グループによりせん断強度測定、圧縮強度測定、P波速度測定および熱伝導率測定が行われます。その後、ワーキングコアは再びサンプリングテーブルに戻され、古地磁気学グループによる船上古地磁気測定用の試料採取、物性グループによる船上個別物性値測定用の試料採取、各研究者用の個別試料採取が行われます。サンプリングと並行して、船上計測用に採取された試料の各種測定・分析も行われます。最後にコアケースに収納されて、測定は終了となります。
(2)Physical Property(物性)グループの船上作業について
私が所属する物性グループは、前述したようにホールコア及びワーキングコアの物性値測定および解析が仕事になっています。測定はホールコアに対して行うものが前述の4種類、ワーキングコアに対して行うものが前述の4種類に加え、個別試料を用いた乾燥重量測定、湿潤重量測定、体積測定の3種類で、合計11種類になります。これらの測定からせん断強度、圧縮強度、P波速度、帯磁率、熱伝導率、間隙率、密度を知ることができます。物性値は、単体でも深度ごとの変化や傾向を知ることができますが、他のチームの分析や観察結果と組み合わせることで、さらに詳細で興味深いデータになります。そのため、物性値とは基礎的ですが非常に興味深いものだと思います。
船上での生活は日々勉強の連続です。国際色豊かなメンバーがそろっていますので、研究面はもちろん、生活面でも文化や言語など学べることは数多くあります。「今日はどんなことが学べるだろうか」と、毎日期待に胸を膨らませ、楽しく研究を続けています。
レポート3 『海洋掘削と地球化学分野研究者の船上での役割について』
尾張 聡子
(千葉大学 大学院生(博士))
千葉大学の尾張聡子です。
私たちの乗船しているJOIDES Resolution号はスリランカのコロンボを出航してから3週間目に突入し、現在海底下約800mを掘削しています。
私たち乗船研究者は1日12時間のシフト制で仕事をしています。ナイトシフトと呼ばれる当直は夜の12時から昼の12時まで、デイシフトと呼ばれる当直は昼の12時から夜の12時まで働きます。掘削は24時間止まることなく行われます。船内には各研究者のラボがあり、それぞれの研究に必要な機械や道具がそろっています。
今日は私が所属する地球化学研究者の船上での仕事についてレポートします。IODP第362次航海の地球化学グループではアメリカから2名、ドイツから1名、日本から1名、合計で4人の地球化学者が参加しています。
私たちの主な仕事は海底下から回収された堆積物をスクイーザーという機械で圧力をかけて絞り、堆積物中に含まれている水、『間隙水』を回収します。その後間隙水の化学分析を行います。海底下の掘削深度が400mあたりまでは、堆積物を絞るのにそれほど高い圧力をかけて絞りませんが、それでも40mL以上間隙水を回収することができます。しかし掘削深度が500mと深くなると堆積物が固結してくるため、堆積物を絞って間隙水を抽出するのに10時間以上かかる場合もあります。時には堆積物に約20Mpa以上の圧力をかけて20時間以上絞っても間隙水が10mLも抽出できない場合もあります。
船上で私たちが行う主な分析は、間隙水に溶存する様々な物質の濃度測定です。例えば栄養塩(リン、アンモニウム)や溶存イオン(塩化物イオン、硫酸イオン、)・ガス(メタン、エタン)、希少元素(リチウム、バリウム)の濃度など、合計で20種類以上もの成分を船上で測定しています。間隙水の抽出が終わったものから随時濃度分析をし、結果を更新していきます。特に測定準備に時間のかかるものは比色法を用いた測定です。濃度の高いものがより濃い青色に発色するという仕組みで、濃度の高さを色に変換して測定しています。間隙水試料にたくさんの種類の色付け試薬を加え、発色させ、その色の度合いを測定します。測定試料にもよりますが、試薬の準備から試料に試薬を加えるだけで、一時間、試料を発色させるのに6時間以上かかる測定もあります。
今日のレポートでは私たちが間隙水を分析することでどんなことが明らかになり、それがどんな意味をもつのか、少しだけご紹介します。海底の堆積物は固体なので堆積後、そのまま埋没し、基本的には堆積物粒子が移動することはありません。しかし私たちが分析する間隙水は流体のため、時間経過とともに、堆積物の間の間隙をゆっくりですが、移動することができます。つまり流体である間隙水を分析することは、間隙水の古さ(年代)、移動してきた場所やその通り道(供給通路)、さらには今現在その深度でどんな化学反応が起きているのかをダイレクトに知ることができるのです。例えば、溶存成分の濃度を変化させる主な要因に鉱物の脱水、微生物活動、有機物や火山灰の変質などが挙げられます。
また私たちが作業を行うときにはいつも必ず手袋をつけます。これは私たちの手の汗などの成分が試料のデータに影響しないようにするためです。基本的に地球化学分野のラボでは堆積物を扱うときや、化学分析の準備、道具の洗浄時など、いつでも、みんな手袋をしています。また堆積物を扱うときと、化学分析を行うときとでは間隙水試料に堆積物が混ざりこまないよう手袋を区別します。さらに新たに使用するバイアルやシリンジは使用前に一度、酸性の溶液で洗浄したり、ラボで履く靴にまで気を遣うこともあります。とても繊細な仕事のように聞こえるかもしれませんが、慣れてしまえば大変なことは何もありません。そのかわりに、違う分野のラボでは堆積物を素手で触って観察しているのでそれを見るたびにいつも、『彼らは素手で堆積物を触っていいんだ!私も素手で触りたい!!!』という気持ちになり、堆積物を素手で触らせてもらっています。
毎日興味深いコア試料が海底下から上がってくるたびに新たな発見と、驚きがあります。船内には様々な分野の研究者の方が乗船しているので、わからないこと、疑問に思ったことをすぐに集まって話し合うことができる、というのが船に乗って研究するということの醍醐味だと感じています。
レポート2 IODP Exp. 362 Sumatra Seismogenic zone: 掘削開始とサイエンスチームの始動
浜橋 真理
(産業技術総合研究所 特別研究員)
私はいまIODP第362次航海に参加し、JOIDES RESOLUTIONという掘削船でスマトラ沖海域にいます。この地域では、インド・オーストラリアプレートがスンダプレートおよびビルマプレートの下に沈み込み、活発な地震発生帯を形成しています。2004年にMw9.2の巨大地震・津波がスマトラ北部及びアンダマン・ニコバー島を襲いました。海溝浅部における断層すべりや付加体の形状・分布、デコルマ(プレート境界断層)の形成を理解するために、沈み込むプレート上の堆積物・岩石(input material)の実態と寄与を調べることが本航海の目的です。
主席研究者(Co-chief scientists:Lisa McNeil, Brandon Dugan)率いて、30名の乗船研究者は、それぞれの専門分野に応じてsedimentology(堆積学)・structural geology(構造地質)・paleontology(微化石)・geochemistry(地球化学)・physical property(物性)・paleomagnetism(古地磁気学)の6つのチームに所属し、船内で分析を行なっています。
8月9日朝にスリランカ・コロンボ港を出航してから最初の掘削地点に到着するまでの約4日間、乗船研究者はサイエンスミーティングを行い、船上分析の準備を進めました。
ミーティングでは、スマトラ地域の地質概要、掘削・孔内計測の地点・方法、各人の研究計画とサンプリングについて話し合いました。研究計画では、さらに複数のトピック:provenance(堆積起源)、microstructure and mineral analysis(微細組織・鉱物分析)、stress and strength(応力と強度)などの小グループに分かれて、活発なディスカッションが交わされました。
私が所属する構造地質班では、最初に、構造をどのように分類し記載するかを数日にわたり話し合いました。掘削に伴うコアの変形の評価方法についても文献を読み、議論をしました。コアの記載は、フィールドとはやや異なります。第一に「構造の方位のはかり方」が挙げられます。回収されたコアは、最初は真の方位がわからないため、半割面に対し南北の基準を決めて構造の方位を測り、その後、古地磁気方位による補正を行います。
掘削・船上の分析は、”day shift”(昼12時から夜12時)と”night shift”(夜12時から昼12時)に分かれ、週7日24時間体制で行います。
JOIDES RESOLUTIONは、8月12日朝に掘削地点に到着し、いよいよコアリングが始まりました!待ちに待った最初のコアが回収され (18:35 UTC)、研究者は各チーム一丸となってコアの記載・分析を行っています。
構造地質班では、観察された構造が堆積構造か・テクトニックか・掘削による変形かを日々議論し判断しながら記載を行っています。となりで分析をしている堆積学チームや物性計測チームとも話し合い、より良い記載を追求しています。
海底下から上がってきた実物のコアを間近で観察するのはとても楽しいです。堆積物の状態と経験した環境を、みんなで解き明かしていきます。
“Core on Deck!”(コアが上がってきました!)船内では、今日もこのアナウンスが響き渡っています。
レポート1 航海開始!
向吉 秀樹
(島根大学 助教)
島根大学の向吉です。
国際深海科学掘削計画(IODP)第362次研究航海Sumatra Seismogenic Zoneに参加するため、8月6日にスリランカのコロンボに入りました。日本からは、私の他に産業技術総合研究所の浜橋さん、千葉大学の尾張さん、山口大学の蔵永さんがこの航海に参加しています。
2004年にスマトラ島沖でMw9.2の超巨大地震が発生しました。この地震はプレート沈み込み帯で発生した海溝型巨大地震になります。
第362次航海では、2004年スマトラ沖地震の地震発生域周辺において、沈み込む前の海底の堆積物を採取し、堆積物の性質と巨大地震発生との関係について調べることを目的としています。この航海には、10カ国から32名の研究者が乗船し、約2か月間かけて海底から採取した試料の観察や分析などを行います。
現在コロンボ港において、長期間の航海に必要な食料や資材などをジョイデス・レゾリューション号(JR号)に積み込む作業が行われています。この間、研究者達はJR号船上において、この航海における研究内容の打ち合わせや、船内のツアーなどを行っています。
JR号は8月9日にコロンボ港を出港し、8月12日に最初の掘削サイトに到着する予定です。
今後、このコーナーを通じてExp.362の船上での生活や研究の様子を随時紹介していきたいと思います。
- プレクルーズトレーニング
開催期間:2016年6月13日~14日
開催場所:高知コアセンター
開催報告:PDF - 乗船
乗船期間:2016年8月6日~10月6日
乗船報告:PDF - 報告書:“Data report: chemical compositions of marine tephra layers in the Indian Ocean, IODP Expeditions 353 and 362,” by Steffen Kutterolf, Julie C. Schindlbeck-Belo, Katharina Pank, Kuo-Lung Wang, and Hao-Yang Lee, was published on 4 April 2023 in Volume 362 of the Proceedings of the International Ocean Discovery Program.http://publications.iodp.org/proceedings/362/207/362_207.html
お問い合わせ
J-DESCサポート
海洋研究開発機構 横須賀本部内
E-mail: infoの後に@j-desc.org