航海概要
テーマ
Costa Rica Seismogenesis Project 2 (CRISP 2)
プロポーザル#537-Full>>こちら(フルバージョンPDF)
プロポーザル#537-Add>>こちら(Addendum PDF)
プロポーザル#537-Add2>>こちら(Addendum 2 PDF)
Scientific Prospectus>>こちら
航海予定期間
2012年10月23日~12月11日
掘削船
JOIDES Resolution

掘削エリア
科学目的の概要
Based on Expedition 334 and Proposals 537A-Full5 and 537A-Add, this expedition aims to understand the processes that control nucleation and seismic rupture of large earthquakes at erosional subduction zones. Scientific objectives include (1) the characterization of the lithology, texture, and physical properties of the subducting sediments and basement; (2) the rate of subduction erosion and subsidence history of the upper plate; (3) the fluid/rock interactions and geochemical processes active within the upper plate; and (4) the evolution of the stress field upslope.
USIOのページ>>こちら
共同首席研究者
Robert Harris、坂口有人(海洋研究開発機構)
J-DESC枠乗船研究者
氏名 | 所属 | 役職 | 乗船中の役割 |
---|---|---|---|
坂口有人 | 海洋研究開発機構 | 技術研究主任 | Co-chief Scientist |
斎藤実篤 | 海洋研究開発機構 | チームリーダー | Core-Log-Seismic Integration Specialist |
山本由弦 | 海洋研究開発機構 | 研究員 | Structural Geologist |
谷川 亘 | 海洋研究開発機構 | 研究員 | Physical Properties Specialist |
橋本善孝 | 高知大学 | 准教授 | Physical Properties Specialist |
浜橋真理 | 東京大学 | 大学院生(修士) | Physical Properties Specialist |
内村仁美 | 熊本大学 | 大学院生(修士) | Paleontologist (Foraminifera -Benthic) |
Paola Vannucchi | 海洋研究開発機構 | 外来研究員 | Structural Geologist |
Proposed Science Plan for Costa Rica Seismogenesis Project 2 (CRISP) Expedition 344
>>PDFダウンロード
Expedition 344 is a continuation of Expedition 334 and is part of a larger project designed to understand the processes that control nucleation and seismic rupture of large earthquakes at erosional subduction zones. Scientific objectives include (1) the characterization of the lithology, texture, and physical properties of the subducting sediments and basement; (2) the rate of subduction erosion and subsidence history of the upper plate; (3) the fluid/rock interactions and geochemical processes active within the upper plate; and (4) the evolution of the stress field upslope.
PREVIOUS SCIENTIFIC DRILLING DURING CRISP EXPEDITION 334 (MARCH-APRIL 2011)
Drilling at upper slope Site U1379 penetrated what appeared to be the sediment/basement interface at the depth predicted by site survey seismic data and cored 80 m into basement, which comprises a breccia of basalt and chert pieces embedded in a sandstone and siltstone matrix. At mid-slope Sites U1378 and U1380 poor hole stability made it impossible to reach basement. Finally, coring at Site U1381 was intended to characterize the physical, geochemical, thermal, and stress state of the Cocos Ridge igneous crust and overlying sediments before they enter the Middle America Trench.
Results of this previous CRISP Expedition can be found in the Preliminary Report at the following link:
Expedition 334 Preliminary Report: publications.iodp.org/preliminary_report/334/
Expedition 344 page: iodp.tamu.edu/scienceops/expeditions/costa_rica_seismogenesis.html
PLANNED SCIENTIFIC DRILLING DURING CRISP 2 EXPEDITION 344:
Coring and logging are planned for four sites
Slope Sites U1378 and U1379: During Expedition 344, the scientific objectives at Site U1378 are to obtain a complete subsidence history and penetrate into basement. Operations will include installation of a reentry system, followed by RCB coring to a depth of 900 meters below seafloor (mbsf), and downhole logging. The scientific objective at Site U1379 is to penetrate deeper into basement. Operations will include drilling without recovery through the previously cored interval (~900 mbsf) and RCB coring to a depth of 1050 mbsf.
Toe Site CRIS-9A: The scientific objectives at margin toe site CRIS-9A are to characterize the material entering the subduction zone from the trench and frontal prism and penetrate the décollement surface between the Cocos and South American plates. Hole A will be APC/XCB cored to 500 mbsf, whereas Hole B will be drilled without recovery to 490 mbsf, RCB cored to 980 mbsf, and logged.
Reference Site U1381: The scientific objective at Site U1381 is to further characterize the sediments overlying the Cocos Ridge igneous crust by APC coring 100 m to the sediment/basement interface.
The original proposals are available at the following links
Proposal 537A-Add: http://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/costarica/537A-Add.pdf
Proposal 537A-Full5: http://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/costarica/537A-Full5_Vannucchi.pdf
募集分野
制限なし
募集〆切
2011年12月15日(木)
2011年1月31日(火)
適任者の応募があり次第
応募する>>こちら
その他
応募方法>>こちら
乗船旅費について>>こちら(乗船が決まった方は様式に記入の上お送りください)
乗船研究者のためのガイドライン>>こちら
注意事項
応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。
修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
乗船に関わるサポートについて
乗船研究者としてIOから招聘される方には乗船前から乗船後に至る過程の数年間に様々なサポートを行っています。主な項目は以下の通りです。
- プレクルーズトレーニング:乗船前の戦略会議やスキルアップトレーニング
- 乗船旅費:乗下船に関わる旅費支援
- アフタークルーズワーク:モラトリアム期間中の分析
- 乗船後研究:下船後最長3年で行う研究の研究費
お問い合わせ
J-DESCサポート
海洋研究開発機構 地球深部探査センター内
E-mail: infoの後に@j-desc.org
Tel: 045-778-5271
最終更新日: 2012年12月11日
※更新の日付は日本時間
レポートインデックス
レポート6>>顕微鏡の中の科学
レポート5>>『穴あけ過ぎ防止ホルダー(仮名)』
レポート4>>「青と白のコンセント」
レポート3>>久しぶりのCore on deck!
レポート2>>船内生活
レポート1>>だからコスタリカ! それがコスタリカ!
レポート6 「顕微鏡の中の科学」12月11日
内村仁美 (熊本大学/Paleontologist)
今回は私が所属しているマイクロパレオントロジーグループの報告をさせていただきます。
IODPのマイクロパレオントロジーの研究者たちの使命は、堆積物から微化石を 取り出し、堆積物が堆積した年代や環境を調べることにあります。面白い堆積構造が見つかっても、いつ堆積したのかわからなければ困りますし、微化石から予 測される環境から大体の古水深を見積もることもできるため、地史(地層の歴史)を知る上でとても重要な作業です。と書きましたが、そもそも微化石って何?と思われる方も多いことでしょう。微化石とはその名の通り、微生物の化石のことです。微生物の化石の研究?なんてマニアックな研究なんだ!と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その通りです。いえ、違います!!化石と聞いてすぐに思いつくのは、恐竜など大きな生き物の化石かと思います。し かし実際には大きな生き物の化石が産出するようなところは限られています。では、どうやってあちこちの堆積物の堆積時の様子を調べるのかと言いますと、多 くの場合使われるのが微化石なのです。微生物が現在でも沢山いることからもわかりますように、微化石は堆積物中に多く存在します。微化石の利点は単に数が 多いというだけではありません。堆積物中の微化石は現在でも生きている種が沢山いるので、そのような種に関しては現在のものと化石を比較することができま す。例えば、沖縄のお土産で有名な「星の砂」は底生有孔虫という海底に棲む微生物の遺骸なのですが、彼らはサンゴ礁に生息しています。彼らが堆積物中から 見つかれば、「ここは昔、浅くて暖かかったのだな」ということがわかります。
微化石も沢山種類があり、「有孔虫屋さん」や「放散虫屋さん」「ナンノ屋さん」 「珪藻屋さん」などなど、それぞれの微化石の専門家がいます。今回のIODPでは「有孔虫」「放散虫」「石灰質ナンノ」の専門の研究者が合わせて5人乗 船しており、マイクロパレオントロジー(微化石)ラボで働いています。今回のIODPでは、進化速度が速く年代を出すのに最適なナンノ化石と放散虫か ら年代を、私の専門である底生有孔虫からは、海底の環境に対応して彼らがそれぞれ棲み分けているという特徴から海底の環境とそれから予想される古水深を出 すのが目的です。特に底生有孔虫に関して言えば、コスタリカは活発な浸食型の沈み込み帯であるので、もしも浸食が進んだ時期があれば堆積物から得られる底 生有孔虫化石は深い種ばかりになるでしょうし、もしも海山などが沈み込んで一気に海底が上昇すれば(水深が浅くなれば)、より浅い種が出てくるようになる と考えられているため、期待されています。
マイクロパレオントロジーラボでの仕事は、「Core on Deck !」の放送とともに、キャットウォーク(コアが上がってくる場所)に向かうことから始まります。コアの先端部分「コアキャッチャー」内の堆積物をもらうた めです。コアキャッチャー内の堆積物は他の層準の堆積物が混合している可能性があるため(コンタミネーションと言います)通常使うことはありませんが、 IODPでの微化石研究はスピードが命であるため(微化石研究は時間がかかりますが、多くのデータを取らないと船上で堆積物と年代/古水深などとの比較を 行うことが難しいため)すぐに手に入るコアキャッチャーの堆積物をもらうとただちに研究に取り掛かります。
有孔虫研究の手順としては、コアキャッチャー試料から、コンタミネーションの 恐れのある周囲の部分を削り取った後に試料を洗浄し、オーブンで乾燥させます。関係ないのですが、このオーブンには「LAB USE ONLY, NO FOOD(食べ物に使うな)」と書かれています。誰か使った人がいたのでしょうか。乾燥させた試料をトレイの上に撒き、顕微鏡で見ながら水をつけた筆で有 孔虫を拾い上げます。ナンノ化石、放散虫は洗う前のコアキャッチャー試料をスライドガラスに乗せ、薬品で封入し、完成したスライドガラスを顕微鏡で観察し ます。
さて、顕微鏡での観察ですが、これが意外と大変です。陸上でも、ずっと覗き続 けていると頭が痛くなってくる、そうしてくると急激な眠気に襲われ(私だけかもしれませんが、私はこの症状は脳が休憩をしたいと訴えているものだと思って います)、最終的にはただただ気持ちが悪くなってくるわけです。船上では元々地面が揺れているわけですから、かなり精神的、肉体的にきつい作業と言えま す。しかし、最終的に得た結果がきれいな群集変化を示していたりすると、辛かったことも報われたような気がしてとても嬉しいです。
さて、そんなことを言ってもきついものはきつい、痛いものは痛い(主に目と頭 と首と…)。そんな私の癒しはパレオントロジーラボから見える朝日でした(夜シフトの人は夜中12時から昼の12時まで働くので、朝日が見られます。昼シ フトの人は夕日を楽しむことができます)。なぜか、朝日がとても見やすい位置にラボが面していて、他のラボの人も休憩がてら朝日を見にパレオントロジーラ ボに訪れたりしていました。コスタリカの朝日はいかにも熱帯の太陽という感じで、とてもエネルギッシュで美しいですよ。みなさんにも写真で感動のおすそわ けをします!

写真1:コスタリカの朝日

写真2:仕事スペースと底生有孔虫屋のアシュレーの置き土産。外国の方は楽しみを見つけるのがうまいです。

写真3:有孔虫拾い出しのアップ。上の黒いトレイに砂を撒き、下にあるスライドに有孔虫だけ入れていきます。
レポート5 「穴あけ過ぎ防止ホルダー(仮名)」11月21日
谷川 亘(JAMSTEC/Physical Properties Specialist)
われわれ物性計測チームが測定に従事しているCore Deck(コアデッキ)の奥には、「Machine shop(マシンショップ)」があります。ここには、様々な工具や金属部品・部材がおいてあり、ちょっとした機械修理組立工房と化しています。われわれ も、このマシンショップに、ちょっとしたお世話になっています。
先日、熱伝導率 の話をしましたが、熱伝導率を測定するためには、コア試料が詰まったアクリル製の円筒形のコアライナーの側面に穴をあけて、その穴に細長い針状のセンサー をコア試料に突き刺します。携帯用電動ドリルを用いてコアライナーに穴をあけるのですが、ドリルビットが長いため、穴をあける時に勢い余ってコア試料にま で穴をあけてしまう恐れがあります。ここだけの話ですが、じつは私も一回それをやってしまいました。その問題を防ぐために、マシンショップで開発されたの が『穴あけ過ぎ防止ホルダー(仮名)』(写真1)。ドリルビットに黒色のプラスチック棒(=穴あけ過ぎ防止ホルダー)を取り付けてドリルビットの長さを疑 似的に短くすることにより、ある深さ以上に穴があかないようになります。言われてみれば非常に単純な仕組みなのですが、こういった発想はなかなか浮かばないものです。

写真1.電動ドリルに取り付けた『穴あけ過ぎ防止ホルダー(仮名)』
また、物性計測 チームでは、堆積物の「圧縮強度」という物性も測定しています。「圧縮強度」というのは、堆積物をある長さ(量)圧縮変形させるのに必要な力(応力)、も しくは堆積物を破壊させるのに必要な力で、堆積物の固さや破壊しやすさの目安となる物性です。シリンジのような形をした「貫入試験機」を半割にしたコア試 料断面にまっすぐつき刺して、1cm貫入した時の「加えた力」を読み取って圧縮強度を評価しています。今回掘削で採取する試料は海底下0mから1000m 深度近くまで様々です。深度が深くなるにつれて岩石は固くなり強度は大きくなりますが、その強度変化は数倍というレベルではなく、なんと2~3桁も変化し ます。そのため、一つの試験機で広い測定レンジをカバーするために、試験機にちょっとした細工を施します。それは、貫入させる先端部分にアダプターを取り 付けて貫入部分の断面積を変化させるのです。アダプターを付けることで貫入先端部分の断面積は16倍になり、その結果、測定値の分解能が16倍になるかわ りに測定可能最大強度が1/16倍になります。この貫入試験機を用いた場合、原理的には先端の断面積が小さいほど高い強度を測定できることになります。要 するに軟らかい堆積物に対してはアダプターを付けて測定し(方法A)、固い場合はアダプターを取り外して測定する(方法B)ことになります。
ところがです。 この二つの方法AとBをもってしても強度測定ができない新手の試料があらわれたのです。堆積物がちょうど方法A(軟らかい岩石)と方法B(固い岩石)の測 定範囲のあいだを取った若干硬い強度を持っていたのです。さてどうしたものか。そこで、マシンショップの登場です。さっそく、「ドラえもん」 (=Etienneさん、なんとなく体型が似ているため)にお願いしました(写真2)。すると、ものの15分ほどで『若干硬い堆積物強度測定用アダプター (仮名)』(写真3)が完成しました。からくりはというと、方法Aのアダプターより断面積が小さいアダプターを作成してもらったのです。さっそく実際のコ ア試料を用いて測定してみましたが、問題なく(精度に耐えうるという意味で)使用できました。ちなみに、これも同じ黒色プラスチックが使われています。 「このプラスチックの正式名称はなんなの?」と聞いたのですが、「よくわからん」という返事。こういう部分でやや抜けている「ドラえもん」、まあ腕は確か なのですが…。

写真2.マシンショップにて『若干硬い堆積物強度測定用アダプター(仮名)』を製作中のドラえもん(=Etienneさん)

写真3.貫入圧縮試験器に取り付けた『若干硬い堆積物強度測定用アダプター(仮名)』
海底の地下深部 は魔物です。事前にどれだけ地下の状態を推定していたとしても、実際の掘削作業中にいつ何時どんな問題が発生するかわかりません。そのため、この船上では 常に瞬発力が要求されますが、マシンショップのドラえもんをはじめ、JRのスタッフは突発事項に対して瞬時に対応できる能力を持ち合わせています。ところ で、このコアデッキにきて、真っ先に感動した「もの」があります。写真をご覧ください(写真4)。この「もの」は臨機応変に対応できるだけでなく、些細な ことに対しても、つねに改善に取り組もうとするJRスタッフの象徴だと感じました。

写真4.お手製のログシート用木製クリップボード(ボードと鉛筆にマジックテープが取り付けてある。これで鉛筆の紛失率が10%以下に低下するものと想定される。)
レポート4 「青と白のコンセント」11月12日
谷川 亘(JAMSTEC/Physical Properties Specialist)
さて、今日はJR船内の電源について報告します。仕事や旅行で海外へ行くときに は必ずその国の電源環境をチェックするかと思います。国によってはB型C型など血液型のようなコンセント(差込口)の変換コネクターや変圧器が必要になり ますが、やや面倒です。しかし、このJRは、「アメリカ式」=つまり日本と同じ電圧かつ同じ形のコンセントです。おかげで、別段なにも用意しなくても、日 本から持ち込んだノートパソコンやデジカメの充電器が使用できました。ところで、JRのコンセントについて気づいたことがあります。それは「青のコンセント」と「白のコンセント」があることです(写真1)。何か、当たり外れのようですが、しいて、当たりといえば「青」のコンセントになるでしょうか。「青」 のコンセントはおそらく接地などを含めて電圧を精度よく一定に調整(regulated)しており、白はしていない(unregulated)というもの らしいのです。そのため、船上ラボの精密測定機器類は基本的に「青」を用います。
話は変わりますが、私の所属する「物性計測チーム」は、掘削したコア試料の「熱 伝導率」という岩石特性を測定しています。「熱伝導率」は文字通り熱の伝わりやすさの指標となる物性値です。船上にある測定装置は、堆積物試料に一定熱量 を加えて、熱量を与えた直近の試料の昇温変化から熱伝導率を計算する方法をとっています。そのため、精度のよい熱伝導率を得るためには、なるべく周囲の温 度変化が少ない環境下で測定する必要があります。船上では温度変化を抑えるために、熱伝導率測定用に特別に堅牢で仰々しい箱を用意して、その中にコア試料 を入れて熱伝導率を測定します。測定時間自体は2分ほどですが、1時間あたりの温度変化が約0.1℃以下になってから自動で測定が始まるように測定開始条 件をセットしています(これって凄くないですか?)。こんなに厳格な条件にも関わらず、当初、実験結果がNG(測定精度が悪くて値として用いることは不 可)ばかり現れて、データが思うように取得できませんでした。特に夜間に比べて、私が担当する昼時間帯(シフトは昼夜二交代制)のNG率が高く、成功率わ ずか一割台以下ということもありました。測定装置が設置してある場所は人の出入りが多いため、もしかしたら原因は周囲の環境にあるのではないかと思ってい ました(堅牢な箱をもってしても、温度変化を防ぐことはできないのか?)。しかし、原因は別にありました。「青」のコンセントです。熱伝導率測定器の電源 プラグが「青」のコンセントに差し込まれていたのです。
・・・・・・「?」・・・・・・
いや、ちょっと待ってください。「青」のコンセントは電源が精度よく制御されて いるのだから、間違っていないのでは?実は、それが間違いだったのです。熱伝導率測定装置の電源は、「白」のコンセントを用いなければならなかったので す。詳細は不明ですが、「青のコンセント」を使うと、奇妙な電気的なノイズが表れてしまうらしいのです(装置との相性もあると思いますが…)。過去に何回 か更新されたこの装置のマニュアルが数冊置いてあったのですが、いずれのマニュアルの表紙にも『白のコンセントを使うこと!』との警告文が書かれていまし た(写真2)。我々の先人たちも同じ過ちを繰り返していたのでしょう。しかしながら、固定観念というのはつくづく危険なものだと、まあいい教訓になりまし た。
私たちが現在行っている深部掘削科学研究も、換言すれば、「地球」に対するこれまでの固定観念を打破するために行っているようなものです。今日も頭をからっぽにして、地球深部から現れてくる岩石をあるがままに見つめてみたいなと思います。

写真1.コアラボの「青」と「白」のコンセント。居室は白のコンセントのみ。

写真2.熱伝導率測定装置のマニュアルの表紙を飾る『白のコンセントを使うこと』。

写真3.サンプリングの様子。サンプリング台はいつも戦場(左Liさん、右浜橋さん)。
レポート3「久しぶりのCore on deck!」 11月12日
浜橋真理 (東京大学/Physical Properties Specialist)
皆様こんにちは!
前回に引き続き、コスタリカ沖地震発生帯掘削計画Exp.344の航海レポートを北緯8度東経84度の海上からお届けいたします。
10月22日に、JOIDES Resolutionという掘削船がパナマ運河を通ってカリブ海から太平洋へ入り、航海の目的地であるプレート沈み込み帯掘削サイトへ出発してから早2週間が経とうとしています。
この航海ではココスプレートがカリブ海プレートの下を沈みこんでいるところでおこる地震発生帯を解明するために、4つのサイトで海底掘削が予定されてお り、現在2つめのサイトを掘っています。今回私が実感した、海底掘削がいかにチャレンジングなことをしているか、ということを皆さまにお伝えしたいと思い ます。
海底下100m、300m、500m、1000m・・と掘り進めるためには、どうしても途中で地層が崩れてきたり、固い層にぶつかってそれ以上深くに行 けないことが起きてしまいます。最初のサイト(沈み込む前のプレート)は海底下100mで浅く地層もやわらかかったため、順調に掘ることができましたが、 今回掘っている海底下800mのサイト(断層の上盤プレート)は困難がたくさんあり、技術者の方々が毎日試行錯誤を続けて1週間が経ちました。固い砂岩 (?)層があるらしく、うまく測定器を下すことができません。音波などのセンサーで海底下の状態を探査しながら、海底下の「お掃除」をします。そして、 掘っている間に崩れるのを防ぐためにケーシングという壁を挿入しなければいけません。そのため実際に掘れるのがいつになるかはなかなか予測ができないので す。
掘削コアが上がってこない間は、前回のサイトでとったデータの解析、まとめを進めます。しかし、コアがあがってこない日がしばらくつづくと、私たち研究 者陣は技術者の方々が頑張っているのを見守るしかありません。食事中でも、うきうきしていたみんなの会話が「コア不足」のため少しずつ元気がなくなってい きました・・
その頃、アメリカではオバマ対ロムニーの大統領選で盛り上がっていました。大統領が決まる運命の日、私たちにも奇跡が起こりました。ケーシングが深部まで挿入でき、コアリングが1週間ぶりにはじまりました!
コアとの久しぶりの再会はとてもうれしかったです。みんなの笑顔が一気に戻りました。ヘルメットと保護メガネをして、はるばる海底500mから上がってきたコアをみんなで見に行きました。
“Core on deck!” (コアがデッキに上がりました!)という放送が、今日も船内に響いています。
今回みんなと感じた、感謝の気持ちと喜びを胸に、最後まで頑張りたいと思います!!
写真1,2 コアがあがってきてよかった!!
レポート2 「船内生活」11月6日
橋本善孝(高知大学/ Physical Properties Specialist)
こんにちは!高知大学の橋本善孝です。
今、コスタリカ沖沈み込みプレート境界地震発生帯の堆積物や岩石を調べるプロジェクトのために、米国の研究掘削船ジョイデスレゾリューション号に乗っています。海上、船からパイプをおろして海底の堆積物や岩石を採取します。
コアと呼ばれる円柱状の長い試料が採取されます。コアをよく観察したり、いろいろな性質を調べたりします。なにはともあれ観察は非常に大切です。何でできているのか?どんな色をしているのか?変な模様はないか?といったことを目で見てよくよく観察します。さらに、堆積物・岩石の性質をいろいろと調べます。どのような成分でできている のか?どれくらいの固さなのか?このような性質を様々な機械を使って調べます。まさに船上の研究室です。また、サンプルを持ち帰って陸上でさらに研究を進 めるために、試料を切り分けることも船上で行います。このような作業のために30名以上の世界中の一級の研究者が一同に会し、昼夜を 問わず研究に没頭しています。また、技術支援員などが15名ほど、掘削や運行スタッフが50人ほど、ケータリングスタッフが10名ほど乗船しており、総勢 100名以上の人員でプロジェクトが行われています。中にはアウトリーチのための学校の先生や、記録ムービー作成のための映像デザイナーも乗っています。船内は研究の場でもありますが、同時にこれら乗船者の生活の場でもあります。 2ヶ月弱、船上で延々と共同生活を営みます。まさに住みながら研究するのです。前回は坂口コチーフから研究の概要について紹介がありましたので、今回は研 究の内容ではなく、研究の流れを含めた船内の研究生活についてご紹介します。
まずは食事についてです。食事は船内生活のなかで研究以外の主要なイベントに位 置づけられます。おいしいご飯を食べることは研究活動を行う上でかかせません。食堂に行くと、肉や魚、スープ、ポテト、コーンなどが並んでおり、ケータリ ングスタッフに欲しいものを言って取り分けてもらいます。これとは別に自分で自由にとれるサラダバーもあります。また、忙しくて食事の時間内に食べ損ねた 場合のために、パンやクラッカーなどは常に置いてあります。ジュース、コーヒーは飲み放題。よく壊れていますが、アイスクリームマシーンもあって、壊れて いないときはいつでも食べられます。食事の時間は5-7時、11-13時、17-19時、23-1時の4回です。私は夜シフト(夜12時から昼12時まで)なので、だいたい夜11時くらいに朝 ご飯を食べます。朝ご飯と言っても他の人にとっては夜ご飯でもあるので、並んでいるのは朝ご飯らしからぬヘビーなメニューです。ですので朝は多くの場合そ れらにはほとんど手を付けず、コックに頼んで目玉焼きを作ってもらいます。昼ご飯や夜ご飯は通常に取り分けてもらうものを食べます。今回ジョイデスレゾ リューションは7年ぶりの2回目なのですが、以前に比べると食事は格段においしくなっています。ご飯は長粒米でぱさぱさしており、そのまま食べるとおいし くないので、以前の経験者に教えてもらってもってきたふりかけをかけたり、お茶漬けにして食べたりします。
しかし思いのほかパンやおかずがおいしいので、ふりかけやお茶漬けのお世話にな らなくても大丈夫そうです。レタスは意外と長いこと保っており、乗船13日目でも、なかなか新鮮です。ほかの日本人が持ってきたドレッシングをたまにもら います。デザートにはケーキが何種類かおいてありますがみためですでにかなり甘そうです。もっともおいしいと思ったのは甘さ控えめの大人向けのプリンで す。毎週日曜日にはアップルクランブルが秘密のメニューとしてあり、コックに言って奥から出してもらいます。
隔週の日曜日にはお昼(私にとっては晩ご飯)に外でバーベキューがあります。コ スタリカ沖ではこの季節でも昼の外はたいへん暑いのですが、たまに外で食事をするのは気持ちがいいです。また、食堂ではない場所にも要所要所にコーヒーマ シーン・エスプレッソマシーンがあり、おいしいコーヒーがいただけます。
船内には様々な娯楽があります。一つはシアターです。大スクリーンに大スピー カー、ゆったりしたソファーで映画をみることができます。ハードディスクストレージに数えきれないほどの映画がすでに入っており、いつでも選んでみること ができます。先日はゾンビが出てくる英国のコメディー映画を見ました。DVDのコレクションもあり、イェオパーソン(事務的なポジション?)のアリサのと ころに行くと貸し出してもらえます。彼女は元気で明るい性格というだけでなく、いろいろな遊びの企画を考えてくれる重要な人物です。シアターの隣にはジムがあります。それほど広くはないですが、トレッドミルやバ イク、筋トレ用の設備が充実しています。ジム内には大型テレビが設置してあり、ミュージックビデオや映画が大音量で流れています。運動して疲れてくると、 大音量の音楽に励まされます。短時間でもできるだけ毎日の運動を心がけています。その隣にはカラオケルームがあります。私はまだ行っていないのですが、ど うもケータリングスタッフのたまり場になっているようです。曲はもちろん英語ばかりだそうです。その他いろいろ企画もののイベントがたまにあります。今回は10月下旬にあたっ ていたので、ハロウィーンパーティーがありました。シアターのソファーをよけて広場を作り、ダンスパーティーをやっていました。最初は恥ずかしくてなかな か混ざれませんでしたが、だんだん盛り上がってきて、最後はスポーツクラブのエアロビクスに参加しているかのごとくでした。ほかにもブレストキャンサーアウェイクネスというイベントでヘリデッキをみんなでねり歩いたり、ギリシャのフォークダンス教室、ヨガ教室、映画鑑賞会などの企画がありました。
居室は基本2人部屋ですが、昼シフトと夜シフトの組み合わせになっており、シフ ト中は居室に戻らないルールになっているので、ほぼ個人部屋として利用できます。二段ベッドが置いてあります。あと机といす。トイレとシャワーは二部屋の 間に一つあり、両側から使う形になっています。ほとんど寝るだけの場所ですが、唯一プライベートの場所でもあります。居室を出るときにドアを開けておくと、ベッドメイキングとバスタオルの交換をし ておいてくれます。洗濯は、洗濯袋に入れて廊下においておくと勝手に持っていってくれて洗って勝手に戻ってきます。だいたい部屋を出るときに出すと、シフ ト空けに戻る頃には出来上がっています。寝る前に出すと、朝起きるときには洗濯が終わって戻ってきています。ですので、同じ服を毎日着るようなこともでき ます。
もちろん生活の中心は研究です。本航海では坂口コチーフの紹介にもありましたよ うに4つのサイト(対象地域)が予定されています。サイトごとに様々な分野のデータを船上のルーチンワークとして取ります。コア(円柱状の試料)があがっ てくる限りこのルーチンワークは12時間の2交代制で24時間、休日なしで行われます。シフト中、15名ほどの研究者が研究支援員とともにどんどんデータを出していき ます。また、下船後の分析のためのサンプル採取もルーチンワークの中で行います。船内での分析機器やサンプルリストの登録などでトラブルが発生したとき は、研究支援員に頼んで解決してもらいます。彼らは長年船内機器の技術支援を行っており、プロジェクトごとに次々と変わる研究者よりも船内機器については 詳しいのです。また、サンプル整理のためのIODPルールも熟知しています。目的深度に到達するとそのサイトの掘削は完了です。そのデータをまとめて、掘削 終了後およそ3日後程度までにサイトレポートを作成します。また、作成したレポートをもとに、サイトレポート会議が開かれ、他の分野の結果をみなで共有し ます。岩相、年代、物性などがどの深度で変化するか?それぞれの分野でその深度は同じなのか違うのか?なぜそのような結果になるのか?といったことが話し 合われます。ほかにもサンプルの分配方法や、コアの流れの見直しなどが会議で話し合われま す。また、担当分野のグループ内ではシフト開始前の15分間でクロスオーバーディスカッションを行い、データの取り方や機器の不具合など、気がついたこと についての話し合いを逐次行っていきます。特に何もないときはシフト中に見た魚についてまったり話し合います。
私は、本航海では物性スペシャリストとして乗船しています。物質のいろいろな性 質(密度、帯磁率、弾性波速度、剪断強度、間隙率、電気伝導度、熱伝導度、自然ガンマ線強度など)を測ります。これらは堆積物・岩石の種類、採取深度、変 形、間隙水圧などに応じて変化します。岩相観察グループ、変形観察グループ、間隙水の成分を測るグループなどの結果と照らし合わせて物性グループの結果を 議論します。また、掘った穴に計測器を挿入し、海底下でのその場の性質を測定するワイヤラインロギングという手法の結果とも対比させながら、対象とするサイトの理解を深めていきます。
航海はまだ始まったばかりです!これからどのような新しい発見に出会えるか?!楽しみにしています。次は修士の学生で、若いパワーみなぎる浜橋さんです。乞うご期待!

写真1 最初のコアを分析機器に運ぶキララ(物性グループ)

写真2 最初のコアの分析を見守る物性グループ
レポート1 「だからコスタリカ!それがコスタリカ!」10月30日
坂口有人(海洋研究開発機構/Co-chief Scientist)
コスタリカ沖地震発生帯掘削計画Exp.344の航海レポートを人工衛星経由でお送りします。まずはコチーフの坂口有人が航海の概要を説明しましょう。
Q1. コスタリカはどこにあるの?
A. はい。中米パナマのお隣の暖かいところです。そこはカリブ海プレートの下にココスプレートが沈み込んで地震を起こしています。この航海は、その地震発生帯を掘削する巨大な計画の一部になります。
Q2. 地震なら日本周辺でもいいのでは?
A. プレート沈み込み帯を大きく2つに分けると、付加型(南海トラフ型)と削剥型(日本海溝 型)があります。南海トラフでも地震発生帯掘削が進行しています。しかしあの大震災を引き起こした日本海溝は、プレートが急角度で沈み込んでいるため、地 震発生帯はものすごい地下深部にあります。世界最高の「ちきゅう」をしても届きません(2012年4月のJFAST掘削は地震破壊が表層に伝播した断層先 端を掘削しました。そこは津波を知る上では重要ですが、いわゆる“地震発生帯”はもっともっと深いです)。
Q3. じゃあ削剥型の地震発生帯は掘削できないの?
A. いいえ! コスタリカなら届くのです! コスタリカも削剥型沈み込み帯の代表選手のひとつであり、しかも「ちきゅう」で掘削可能な深度に地震発生帯があるのです。だからコスタリカなのです! それがコスタリカなのです!
Q4. 地震発生帯を掘削しているのですねっ!
A. いいえ。残念ながらまだです。いずれ「ちきゅう」の超深度掘削テクノロジーで地震発生帯を掘削するために、周囲のサイエンスをがっちり固めているとこです。
Q5. 今回は何をするのですか?
A. 次の4ヶ所を掘ります。
- プレート境界断層の先端部(海底下980m)
- 断層の上盤プレート(海底下800m)
- 沈み込む前のプレート(海底下100m)
- 将来の超深度掘削のパイロット(海底下1430m)
これらは数1000mになる超深度掘削に比べるととても浅いですが、ターゲット となる断層が、いったいどんなものか?を知る上で重要です。そこには地震が繰り返えされた結果、この地域で何が起きてきたのか?という情報が記録されてい るでしょう。深部からやってきた流体や、これから地震発生帯に沈み込んでいく物質を知ることもできるでしょう。それが沈み込んで、どう変化するかもわかる でしょう。世界中から集まった研究者たちと、コツコツと物的証拠を集めているところです。
いまちょうど最初のサイト“沈み込む前のプレート”を掘り終えたところです。次に断層の上盤プレートの掘削準備を進めています。

写真1.コスタリカ沖で最初のサイトを掘り終えました。画面左側では、あがってきたばかりのコアをカットしています。
次のレポートは高知大学の橋本さんです。みなさんお楽しみに。
- 2nd Postcruise Meeting
開催期間:2015年6月22日~24日
参加報告書:こちら(PDF)
※IODP研究成果の取りまとめは、研究航海乗船者に対するサポートを継続していくために非常に重要なものです。成果については、主に日本(J-DESC枠)から乗船した方が含まれる論文をまとめております。新たに論文等を出された場合や資料中の過不足・お気づきの点などがございましたら以下まで情報をお寄せください。
参考:IODP Publications
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参考:Scientific Ocean Drilling Bibliographic Database
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