航海概要
テーマ
Hikurangi Subduction Margin
プロポーザル#781A-Full>>こちら(フルバージョン)
Scientific Prospectus>>こちら
航海予定期間
2018年3月8日~2018年5月5日
掘削船
JOIDES Resolution
乗船/下船地
Lyttelton, New Zealand / Auckland, New Zealand
掘削地点
科学目的
Expedition 375 will investigate slow slip events (SSE) along the northern Hikurangi subduction margin (IODP proposals 781A-Full and 781A-Add). Hikurangi SSE recur every ~2 years so we can monitor changes in deformation rate and associated chemical and physical properties surrounding the SSE source area throughout an entire slow slip cycle. Sampling material from the sedimentary section and oceanic basement of the subducting plate and from primary active thrusts in the outer accretionary wedge, in combination with LWD data, will reveal the rock properties, composition, and lithological and structural character of the active faults involved in the SSE, as well as material that is transported downdip to the SSE source region. Coring and downhole measurements from four sites will be integrated with the LWD data collected during Expedition 372. In addition, borehole observatories will be installed at the thrust fault site and a site in the upper plate to monitor hydrologic, chemical, and physical processes during the SSE cycle.
JRSOのページ>>こちら
共同首席研究者
Demian Saffer and Laura Wallace
J-DESCからの乗船研究者
氏名 | 所属 | 役職 | 乗船中の役割 |
伊藤喜宏 | 京都大学防災研究所 | 准教授 | Petrophysics (Physical Properties) / Observatory Specialist |
野田 篤 | 産業技術総合研究所 | 主任研究員 | Sedimentologist |
橋本善孝 | 高知大学 | 教授 | Sedimentologist |
Annika Greve | 海洋研究開発機構 | ポストドクトラル研究員 | Paleomagnetist |
乗船に関わるサポート情報
乗船研究者としてIOから招聘される方には乗船前から乗船後に至る過程の数年間に様々なサポートを行っています。主な項目は以下の通りです。
- プレクルーズトレーニング:乗船前の戦略会議やスキルアップトレーニング
- 乗船旅費:乗下船に関わる旅費支援
- アフタークルーズワーク:モラトリアム期間中の分析
- 乗船後研究:下船後最長3年で行う研究の研究費
乗船の手引き(乗船前準備や船上作業・生活方法に関する経験者からのアドバイス集)>>こちら
お問い合わせ
J-DESCサポート
海洋研究開発機構 横浜研究所内
E-mail: infoの後に@j-desc.org
Tel: 045-778-5703
募集情報
募集分野
制限なし
追加募集分野
- Paleomagnetists
- Biostratigraphers (foraminifers, nannofossils, and radiolarians)
応募>>こちら
応募用紙の記入方法>>こちら
募集〆切
2016年10月1日(土)
2017年2月1日(水) 追加募集〆切 募集は終了しました
Information Webinar
September 20, 2016, 2:00-3:00 pm EDT
(日本時間 2016年9月21日 午前3時-4時)
To learn more about the scientific objectives of the expedition, life at sea, and how to apply to sail, please join us for this web-based seminar.
To participate in a webinar, you need access to the Internet and a computer with a microphone and speaker capability or a telephone. To register, click on the link below. After registering, you will receive an email response with instructions on how to join the webinar.
Information Webinar registration for Exp. 375 >>
https://attendee.gotowebinar.com/register/6102549396034882308
注意事項
応募する方は全員英文CV、さらに在学中の場合は指導教員の推薦書が必要となります。
修士課程の大学院生の場合は乗船中の指導者(指導教員もしくは代理となる者)が必要です。
最終更新日:2018年5月2日
※日付は日本時間
レポートインデックス
レポート4(2018年5月1日)>>海底下への探検を終えるにあたって
レポート3(2018年4月16日)>>みんなで仲良く楽しんでいます。
レポート2(2018年4月8日)>>About Magnets, sun, yoga and art at sea – life on board of expedition 375
レポート1(2018年4月1日)>>ヒクランギ沈み込み帯の付加体前縁での掘削
レポート4:海底下への探検を終えるにあたって
2018年5月1日
伊藤喜宏(京都大学防災研究所 准教授)
地面下の堆積物や岩石を直接手にして調べる機会がほとんどない地震学者が乗船する、ニュージーランド沖の沈み込み帯で発生するスロー地震の発生メカニズム解明に向けた第375次掘削航海(2018年3月8日〜5月5日)もいよいよ終盤を迎えました。海底地震計や海底圧力計を設置している地下の様子について、地震波を用いた構造探査の結果から自分なりに正しいイメージをもっているつもりでした。しかし、実際に取得されるコア試料を手にすると、事前にイメージしていたものと異なる点が多く毎日が驚きの連続でした。特に地下数百メートルから採取される堆積物がこんなに“やわらかいのか!!”と驚いたり、別の場所ではより浅部でカチカチの玄武岩が採取されたり、さらには僅か深さ数十メートルの違いで年代が500万年も違っていたり、、、。地面の下って面白いですね。
今回は採取される資料の密度や地震波速度等の計測を担当するグループのメンバーとして乗船しました。特に地震波速度の計測からは、今後の研究活動を進めるに際して貴重な経験を新たな知見を得ることができたと思います。また、航海を通して試料の計測や他の乗船研究者との議論の間、常に知的好奇心に駆られていた点がとても印象に残っています。今後は航海で得られた新たなアイデアに基づき、海底から取得された物質を用いた摩擦試験や今後ニュージーランドの海底から回収される海底圧力計の解析を進め、スロー地震発生メカニズム解明を目指します。今後も機会があれば、IODP の掘削航海に参加して海底の下を覗いてみたいですね。皆さんも是非地面の下の探検の旅に参加してみてください。
レポート3:みんなで仲良く楽しんでいます。
2018年4月16日
橋本 善孝(高知大学 教授)
高知大学の橋本善孝です。ジョイデスレゾリューション号からお送りいたします。
私は第一回目のレポートの野田さんと同じ、堆積学のメンバーとして本航海に参加しています。船上での堆積学の仕事は、堆積物の構成鉱物と粒子サイズ分布などから名前を与えること、堆積構造の記載です。本航海では、陸側先端のフロンタルスラストサイト(まさにプレート境界断層が海底面に表れているあたり)、海溝より海側のリファレンスサイト(沈み込む前の堆積物と基盤玄武岩)、陸に最も近い上部スロープサイト(大きなスロースリップが起こっているプレート境界の直上)を主要なターゲットとし、スロースリップに特有の堆積物や層準が存在するかを探っています。船上では世界中から研究者が集まって、年代、物性、流体移動、温度、変形構造、など様々なデータが24時間体制で一気に取られます。とんでもなく高い生産性です。船上データにとどまらず、岩石や堆積物を目的別に採取して陸上に持ち帰り、さらなる分析データを加えて論文を仕上げるまでが研究者の仕事です。
また、先に行われた第372次航海において上記のサイトで「掘削時同時検層」という技術を使って物性データが得られています。この技術を用いると、試料は採取できませんが、ほぼ連続した物性データ(密度、電気伝導度、弾性波速度など)が得ることができ、その結果からある程度どのような岩石や堆積物が取れるか予想がつきます。本航海ではほぼ同じサイトで実際に試料を採取します。試料採取と検層データを合わせることでより完全な理解に繋げていきます。これをコアーログ・インテグレーション(コア試料と検層データの統合)といいます。本航海ではコアーログ・インテグレーション専門のメンバーもいます。
定番の簡単な研究紹介はここまででです。今回のレポートのネタとして若者向けにいいかもしれないと思い、一部の研究者に「どうして地球科学を選んだのか」を聞いてみました。以下、インタビュー結果をお送りいたします。
ジュリー(構造地質学、米国)「私が地球科学を選んだ理由は、二つあるわ。一つは、両親の影響。母親がサイエンスの本好きで、家にばさっとナショナルジオグラフィックが置いてあったの。そこにはプレートテクトニクスについて書かれていたわ。それで、私たちの足元がどうやってできたのか、興味がわいたの。もう一つは、住んでいたところが山の近くだったことね。どうやってそういう地形ができたのか、子供ながらに不思議だったの。それで、地球科学を選んだのね。」
タイ(技術補佐員、米国)「高校の時はやりたいことが決まってなくて、大学には工学系で入学したんだけど、一年生の時にたまたま地質学の授業をとって、あー面白いと思ったのがきっかけ。」
マオマオ(構造地質学、中国)「当時はオイルマネーが値上がりしていて、仕事が得られやすいと思ったからだね。情報科学やファイナンス関係はすごい人気があったから競争が激しそうだったし、それよりは石油業界のほうがより競争が少ない。両親とも相談したよ。」
クリスティー(堆積学、ブラジル)「私はテレビで見た海洋の番組をみて、研究者になることを決めたわ。7歳の時。大学で海洋地質の講義を受けて、ますます楽しくなった。海洋といっても生物じゃなくて地質学を選んだのは地質学の方がよりいろんな分野を含んでいると思ったから。ブラジルは石油も強いけど、私は工学よりもサイエンスやアカデミアで話を作る方が好きね。」
上述の口調は私が人柄を想像したものです。(乗船者の顔は以下のリンクから確認できます。https://iodp.tamu.edu/scienceops/precruise/hikurangimargin/participants.html)
ほかの人にも雑談の中で同じような話しました。おおむね大別すると、子供の頃の経験からすでに目覚めていた人、なかなかやりたいことが決まらずに大学で目覚めた人、就職先として現実的に決めた人、といったパターンに分けられそうです。もちろんすっぱりと単純化できるわけではなく、実際にはこれらがいろいろ混ざり合って今に至っているようです。私はどちらかというとタイに近いです。
この後の会話はたいていあなたの国では高校生が地球科学を学んでいるのか、といった話になるのですが、日本と同様、ほとんどの国で高校では地球科学をやらないようです。
こんなまじめな話ばかりでなく、前回のアニカのレポートにもあったように、いろいろなイベントを楽しんでいます。ダンスパーティー、誕生日パーティー、クッキーブレイク(3時と9時)、ムービータイムなどですね。昨日は航海ロゴコンテストが始まりました。研究者が作ったロゴを持ち寄り、みんなで投票して航海ロゴを決定します。決まったらTシャツにプリントします。明日決定します。個人でロゴ案を出すことが多いですが、今回私たちは堆積学チームで共同の作品を出しました。もう一つの楽しみは下船後研究の発表会をどこで行うかを決めることですね。大体下船後二年以内に、採取した試料の分析結果を持ち寄って発表会をひらきます。乗船者の誰かがホストをすることになり、受け入れるとなると大変ですけど。残り20日を切り、下船後発表会をどこでしたいか、誰にホストをお願いしようか、そろそろみんなで話題になるころです。
レポート2:About Magnets, sun, yoga and art at sea – life on board of expedition 375
2018年4月8日
Annika Greve(海洋研究開発機構 ポスドク研究員)
和訳:橋本 善孝(高知大学 教授)
こんにちは。私の名前はアニカ・グレヴです。ジョイデス・レゾシューションからお送りします。今、ニュージーランドの北島の小さな町ギズボーンから東へ100キロメートルほどのヒクランギ沈み込み帯で乗船研究をしています。先週、沈み込み帯陸側先端にCORKという長期観測機器の設置を無事終えて(前回の野田さんのレポートを見てね)、今は海側の太平洋プレートを掘っています。ここでは、太平洋プレートがオーストラリアプレートの下へ西向きに沈み込んでいます。
みなさんご存知のように、ジョイデス・レゾリューションでの生活は忙しいです。私の船での役目は古地磁気学です。海底から掘削で得られた岩石や堆積物の地磁気について調べています。私が取ったこのような情報から堆積物の年代がわかります。ですので、堆積学や微化石年代学のメンバーととても緊密に研究しています。
私たちは夜シフトと昼シフトに分かれています。それぞれのグループは12時間交代で24時間働きます。仕事は大変ですが、中には楽しい社交的な時間もあります。
今日は「ハンプ・デイ」でした。ハンプ・デイとは「真ん中の日」という意味で、ジョイデス・レゾリューションで4週間が過ぎたということです!この日を祝うために技術補佐員たちが実験室やみんなの過ごす場所にラクダの写真を貼っていました(ラクダのこぶのてっぺんという意味らしい)。
先ほどの長期観測機器の設置のとき、あるスペアパーツが足りないことが判明しました。幸運にもニュージーランドの研究船であるタンガロアが多くの日本人研究者を乗せて、同海域で運行していました。彼らのおかげでスペアパーツが手に入りました。ひと月前にタイマルというニュージーランドの南島を出てから一隻も他の船を見ていなかったので、私たちは大いに盛り上がりました。
研究者みんなで次の長期観測機器に名前や絵を書きました。この長期観測機器は来週、上部斜面(陸に最も近い掘削地点)に設置される予定です。この長期観測機器は1キロメートルの海底下に設置されます。深海の生き物たちが私たちのアートを喜んでくれるに違いありません。
仕事明けの時間には、ジョイデス・レゾリューションの一番上にある「鉄のビーチ」でみんなでリラックスした時間を過ごします。そこからの海や掘削櫓の眺めは最高です。また、みんなで歌ったり(そんなにうまくないので、少人数で!)、ジムへ行ったり、ヨガを楽しんだり(ときどきサバイバルスーツを着てやる!)しています。
毎週一回、避難訓練に参加しなければなりません。今の所、運良く好天に恵まれていて、お日様にライフベスト姿を見せることができます。
レポート1:ヒクランギ沈み込み帯の付加体前縁での掘削
2018年4月1日
野田 篤(産業技術総合研究所 主任研究員)
ニュージーランド沖の沈み込み帯をターゲットにする第375次掘削航海(2018年3月8日〜5月5日)は日程の1/3を終えたところです。この間、作業の日程はやや遅れぎみではありますが、海況は概して安定した日々が続いています。これまでに、付加体最前縁のサイトU1518での掘削を実施し、その後同じ地点で圧力と間隙水の観測のための掘削と機器の設置作業が行われました。
サイトU1518は、太平洋プレート上のヒクランギ海台がニュージーランド北島東方沖で沈み込むところに位置しています。まさに今、付加体が形成されつつある地点であるとともに、顕著なスロー地震が繰り返し起きている地点でもあります。音波探査記録やExp. 372航海でのロギングデータから予想されていたスラスト(海底下310 m付近)を掘り抜くことが期待されていました。
通常、コアが上がってくると、ホールコアでの物性測定が行なわれた後、記載・測定・サンプリング用に半割されます。筆者はsedimentologistのチームに所属し、半割されたコアの記載を担当しています(写真1)。JR号に乗船するのは初めてですが、船上での作業の流れ・測定装置・アプリケーションなどのシステムは良く考えられており、非常に洗練されていることに驚きました。コアはバーコードによって管理され、データの取得からサーバーへのアップロードまで簡単にできるようになっています。さらに実験室内のどの端末からでも、深度によって整理されたデータや写真を見ることができます。
コアは予想どおりの深度で断層帯を通過しました。わずかな幅しかないコアの中に褶曲や断層が数多く見られたため、限られた試料に研究者たちのサンプルリクエストが集中しました(写真2)。あまりに多くのリクエストが重なったため、Co-ChiefとStaff Scientistによってリクエストは整理され、技術支援員らの手によってサンプリングされることになりました(写真3)。
今後は、海溝を充填する堆積物を掘削します(サイトU1520)。これから沈み込もうとする堆積物が何から構成されており、それがどのような性質をもっているのかを調べることで、スロー地震発生のメカニズムを明らかにしようとしています。